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「は?来てない?」
目の前で、キープだからって置いてったいい日本酒と、それに合うように作った和食をつつきながら言った信二さんは、心底怪訝そうな顔をしていた。
「はい、お忙しいんじゃないです、かね」
話は10分前に遡る。
「いらっしゃいま……信二さんかあ」
「なんやねんな、俺じゃ不満ってか」
外の看板はクローズにして、お店の中で片付けや仕込みをしていたら、合図がした。
前回、あれから暫く飲んだ皆さんは、口を揃えてまた来たいと言ってくれたけど。
みんな忙しいし、飛び入りの仕事も多くて確約ができないのに、貸切で開けててもらうのは罪悪感がある、
とやはり口を揃えていうものだから。
(わたし、ここに住んでるので、次の日の支度でカウンターにいることも多いですし、もちろん気付ける範囲ですけど、)
(ドアを3回ノックして、開けゴマって言ったら開けてあげます)
そんな提案をしてみた。
その時の変な顔の4人、面白かったなあ。
それからというもの。
その合言葉を使って一番やってくるのが、
目の前のこの人。
次が、この人の相方。
初対面だった稲田さんが来にくいのはわかるけど。
待てど暮らせど、
河井さんがその合言葉を使うことは、なくて。
彼が来ることを期待しては、違った時の自分の気持ちの上がり下がりが、ちょっとバカらしくなってきている、そんな夜。
「不満とかは、全然ないですけど」
「けどなんやねん」
「信二さんには、かんけーないもん」
信二さんは、決まって自分が来たら一緒に飲めっていうから、わたしもいい感じにアルコールがまわって。
ふわふわした思考回路も、ちょっと崩れ始めてる敬語も。
なんにも言わずに容認してくれるこの人に、不満があるわけない。
ただ。
「俺じゃないやつ期待してたんやろ、どうせ」
「えっ?」
「図星って顔に書いてあってむかつく」
「そんなんじゃ、ないですよ」
「ゆずるやろ?」
図星どころか、全部その通り過ぎて。
誤魔化そうにもこの人は鋭いし、私のことはなんでもお見通しだし、まして店には他に誰もいないから逃げられない。
「信二さんには、隠し事できない、ですね…」
「なんや、あいつもよくくるん?」
「いや、あれから一回もきてないです」
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きゃめ(プロフ) - HanNAさん» わー!ありがとうございます!長々引っ張ったけど花火のシーズンに終われてよかったかなって思ったりします笑 りんご飴いいですよね!食べるたび妄想に使ってもらえたら嬉しいです^_^ (2021年8月17日 12時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
HanNA(プロフ) - きゃめちゃんおつかれさまでした…!リンゴ飴食べたくなっちゃいました☆ (2021年8月16日 18時) (レス) id: 9d1b7de85f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きゃめ | 作成日時:2020年10月14日 17時