4 ページ22
*
「…ちゃん、けんちゃん!」
「うわ、な、なにぃ?びっくりするやん」
「いきなり固まったのそっちやろ?ええよ、いいたくないことは」
ハマくんは、根掘り葉掘り聞くわりに、本当に聞いて欲しくないところは、いつも聞かないでいてくれた。
人との距離の取り方がどこか似ているから居心地が良くて、むかしはよく飲み歩いてたっけ。
その日限りの出会いにまみれた若い頃を思い出しながら、
目の前の同期の、スラリとした指に嵌ったシルバーをぼんやり見つめる。
「たださあ、けんちゃん」
通りすがりの店員さんに、おかわりください、とジョッキを傾けながら言う彼は、ひどく優しい顔をしていて。
「ほんまに、手放したくないときは。
譲ったらあかんよ、自分の気持ち。」
真っ直ぐ見つめる瞳は、彼の立場もあって説得力があって。
「わかっとるよ…そんな、こと」
こんな返しをすれば、そういう相手がいるって、答えてしまったようなものなのに。
「失うくらいなら、今のまんまが一番やって、思ってまうんよ。」
返した言葉は、掠れてとても、情けなかった。
「失ったら、また捕まえに行けばええやん。」
手放すくらいなら、それはそれくらいの気持ちやったってことやで。
正論を叩きつけられて、思考はパンク寸前で。
無意識にくわえたタバコから、きついメンソールが抜ける。
「ていうか、おにーさん、タバコ強すぎ。
体大事にしてくださいね」
記憶の中で君が、はじけて消えた。
103人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きゃめ(プロフ) - さゆさん» さゆさんコメントありがとうございます!書いててしんどいんでもっと幸せな話にすればよかったと思いつつ、お声がけいただける言葉でなんとか書いております!どうぞ最後まで見届けてやってください!いつもありがとうございます◎ (2020年8月24日 10時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ - いつも更新お疲れ様です!!ここまでの展開、思いを上手く表現できず何とも言えないもどかしいですね、、きっと良い方向に向かってくれると信じて最後までしっかり見届けたいと思います!更新大変だと思います、無理はなさらないでください( ; ; )応援しております◎ (2020年8月24日 1時) (レス) id: a45b2e5612 (このIDを非表示/違反報告)
きゃめ(プロフ) - メイさん» 泣かせてしまったでしょうか…今日はもう少し続きを更新しましたが、あんまり現状は変わってないですね…ちゃんとお互いの気持ちが通じればいいんですけど。もうすこしまっててあげてください。 (2020年8月23日 19時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
メイ(プロフ) - 泣きそうになりました。ホントに上手くいかないですね、、でもあの場面をみたら誤解しちゃいますよね。誤解だと分かれば良いな。 (2020年8月23日 19時) (レス) id: 24f8e2afc7 (このIDを非表示/違反報告)
きゃめ(プロフ) - メイさん» 上手くいかないですよね…川西さん、気持ち素直に動いてくれたんだけどな…どうぞこの後も見守ってやってください。メイさんいつもありがとうございます。 (2020年8月22日 9時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きゃめ | 作成日時:2020年8月16日 9時