とある夜のお話2

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「けんちゃん、今日夜どう？」


久しぶりに劇場で一緒になったハマくんは、最近お酒を控えたとかでえらく痩せた。


もちろん、病的にというよりむしろ健康的に痩せているから、家庭を持つってこうなんやなあなんて、ぼんやり思う。




「あー…………、ほんならぜひ」





なんやねんその間は。


大阪芸人は根からの芸人気質が多すぎて、相変わらずの素早いツッコミに尊敬の念すらある。





「あ、それとも。例の子？」


「…もうええわあ」



まあ、自分も大概なのだけれど。






東京に来て何年か経つはずなのに、ハマくんはびっくりするくらいチェーン店ばかり提案してくるし、
当の自分はいつも水田にお任せなので、お互い特に行きたい店も決まらずに東京の街を彷徨う。


けんちゃんは、行きつけとかないん？

と聞かれた返答に、ふと過った場所。



でも、なんとなく知られたくなくて、水田くんにお任せばかりよ、と当たり障りのない返しをした。




結局、少し空いてそうなよく見る看板の居酒屋に決めて、奥の個室に腰を据えて。




「とりあえず生二つ、」



冷たいおしぼりで顔を拭けば、けんちゃんそれやったらおっさんやで、とハマくんに笑われた。




「けんちゃんは、そういう話はないの？ほら、顔も知らない彼女は？」



とっくに忘れてくれてると思っていたのに。



あの時と変わらずニヤニヤしながら聞いてくるこいつに、俺はなんで答えればいいんや？




顔は、知ってる。


名前も、知ってる。


お互いの仕事も、連絡先も。


たまにご飯にも行くし、飲まないわけでもない。



でも、それ以上でも、それ以下でもない。




あの夜から、ふわりと消える煙みたいな彼女が、
つかめたと思えば掌をすり抜けていくから。



アルコールを流し込んだ思考の中で、きらきら笑う君。


その顔が、ぼやけては消えていく。

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