3 ページ15
＊
「きょうは、帰るわ」
そう言って店を出て行ったゆずる。
あいつは、人間たらしで誰にでも分け隔てないように見えて、
必要ないものに時間をかけるタイプではないのは長い付き合いで知っている。
人よりパーソナルスペースが狭いゆずるでも、さすがにあの距離まで縮めるのは、そういうことだとわかる。
逆にいえば、さらに必要ないものに時間をかけない俺を知っているゆずるにも、自分の気持ちなんて筒抜けなわけで。
あいつが最近やたらご機嫌なのも、よくテイクアウトしてるコーヒーも。
他人事だと流していた日常が、パズルのピースのように空いた場所に埋まっていく。
あの長い二人だけの夜を、
幻に変えてしまったのは自分なのに。
こんなにわかりづらく変容していく自分の気持ちなんて知らなすぎて、一つもうまく動けないせいで。
自分だけだと思っていた土俵には、
一番めんどくさいやつが既にスタートを切っていた。
ここで、もっと気の利いたことでも言えれば。
なんならストレートにぶつけてしまえれば、変わるのかもしれないけれど
性分じゃなさすぎて、頭の堅い自分が後ろで手綱を強く握る。
「邪魔したかな」
これで邪魔だったなんて言われたら、俺、どないするんやろう。
他人事のように思考する脳内で
いつまでも返ってこない返事に、それが肯定のようなきがして。
「よかったん？ゆずる」
畳み掛けるような質問なんて、自分らしくなさすぎて、余裕がない自分が滑稽すぎる。
「あ、はい。用事あったみたいですし」
一度わるいほうに回り出した思考と、
君と出会ったのは俺の方が先なのにと溢れる独占欲がぐちゃぐちゃになって、言葉にならない。
「あ、えと。ご飯食べますか？飲みにしますか？」
切り出した君は、再会したあの日と同じ顔をしている。
あの日から、何一つ変わらないのは
きっと自分の気持ちと。
彼女の気持ちもそうだと、信じていたかった。
「卵焼き…がええな」
零れた言葉に、君は変わらず笑うから。
君が未来を望むなら、約束するから。
「…、なんか。オムライスと卵焼きって、わたし、卵料理しかできないみたい」
照れて笑う君のその笑顔だけ。
それだけで他はいらないから。
「俺は好きやけどね」
君のことも、なんて。
そんなキザで恥ずかしいことは、言えないのだけど。
君の頬にさす、桃色
幸せにしてあげたいと、おもった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 103人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きゃめ(プロフ) - さゆさん» さゆさんコメントありがとうございます！書いててしんどいんでもっと幸せな話にすればよかったと思いつつ、お声がけいただける言葉でなんとか書いております！どうぞ最後まで見届けてやってください！いつもありがとうございます◎ (2020年8月24日 10時) (
レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ - いつも更新お疲れ様です！！ここまでの展開、思いを上手く表現できず何とも言えないもどかしいですね、、きっと良い方向に向かってくれると信じて最後までしっかり見届けたいと思います！更新大変だと思います、無理はなさらないでください（ ; ; ）応援しております◎ (2020年8月24日 1時) (レス) id: a45b2e5612 (このIDを非表示/違反報告)
きゃめ(プロフ) - メイさん» 泣かせてしまったでしょうか…今日はもう少し続きを更新しましたが、あんまり現状は変わってないですね…ちゃんとお互いの気持ちが通じればいいんですけど。もうすこしまっててあげてください。 (2020年8月23日 19時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
メイ(プロフ) - 泣きそうになりました。ホントに上手くいかないですね、、でもあの場面をみたら誤解しちゃいますよね。誤解だと分かれば良いな。 (2020年8月23日 19時) (レス) id: 24f8e2afc7 (このIDを非表示/違反報告)
きゃめ(プロフ) - メイさん» 上手くいかないですよね…川西さん、気持ち素直に動いてくれたんだけどな…どうぞこの後も見守ってやってください。メイさんいつもありがとうございます。 (2020年8月22日 9時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：きゃめ | 作成日時：2020年8月16日 9時
