失いたくなかった場合1 ページ13
*
運命とは、時に残酷なのである。
ただ、片側面だけの事実を見ていても、
それが正解だとは限らない。
いろんな角度から、物事を捉えるのが柔軟な思考を身につけるのにはいいでしょう。
どこかで聞いた、カウンセラーの言葉が反芻する。
ただし、それは。
冷静な判断ができる状況に、限る、と。
*
「あ、川西さん、こんばんわ」
座っていたところから立ち上がったことで、自然に作られた距離と、外された視線。
それに答えが乗せられているような、気がした。
「Aちゃん、また、くるわ」
「あれ、もう帰っちゃうんですか?」
少しだけ残っていたビールを流し込んで。
「稲田がなんかきて欲しい言うねん」
これくらいかな、と代金をカウンターに滑らせれば。
「え、河井、さん。もらいすぎです」
申し訳なさそうに、それを戻そうとするから。
「じゃあ、次来たときになんかおれが好きそうなん準備しといて」
難しいですよ、と眉を下げる君に。
少しだけその掌に重ねて、押し返す。
まだ返されては困る気持ちごと、乗せて。
「また、お待ちしてます」
最近気づいたこと。
彼女は、未来系の会話をするとき、ひどく嬉しそうにするということ。
本人は無自覚なのだろうけれど。
だから、
「いつでも、連絡くれていいから」
「え?」
「一人じゃ、ないで、Aちゃんは」
「ほんなら、またな」
頭を一つ撫でて、言い逃げのまま店を後にする。
視界に入るのは、入り口に立ち止まったままの川西。
「けんちゃん、ここ知ってたんや」
「今割とびっくりしてるで、俺」
その顔は、けんちゃんがたまにやる、処理しきれなかったときの顔。
「生憎やな、俺もや」
きっと俺も、おんなじような顔、してんねやろな。
「きょうは、帰るわ」
きょうは、な。
その言葉に乗っけた俺の気持ちを、きっとけんちゃんはわかってる。
きっと今、俺たちは脳内で同じくらいのスピードで辻褄あわせをしてるんだろうけど。
きっと言葉にしなきゃ、わかんないことばっかりや。
俺も、けんちゃんも。
Aちゃんも。
大人になると、こんなにも不器用にしか、生きれなくなるのだろうか。
人より思ったまんまに進んできたつもりやったけど。
わからないことが多すぎて、
扉を開きながら、考えるのを、やめた。
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きゃめ(プロフ) - さゆさん» さゆさんコメントありがとうございます!書いててしんどいんでもっと幸せな話にすればよかったと思いつつ、お声がけいただける言葉でなんとか書いております!どうぞ最後まで見届けてやってください!いつもありがとうございます◎ (2020年8月24日 10時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ - いつも更新お疲れ様です!!ここまでの展開、思いを上手く表現できず何とも言えないもどかしいですね、、きっと良い方向に向かってくれると信じて最後までしっかり見届けたいと思います!更新大変だと思います、無理はなさらないでください( ; ; )応援しております◎ (2020年8月24日 1時) (レス) id: a45b2e5612 (このIDを非表示/違反報告)
きゃめ(プロフ) - メイさん» 泣かせてしまったでしょうか…今日はもう少し続きを更新しましたが、あんまり現状は変わってないですね…ちゃんとお互いの気持ちが通じればいいんですけど。もうすこしまっててあげてください。 (2020年8月23日 19時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
メイ(プロフ) - 泣きそうになりました。ホントに上手くいかないですね、、でもあの場面をみたら誤解しちゃいますよね。誤解だと分かれば良いな。 (2020年8月23日 19時) (レス) id: 24f8e2afc7 (このIDを非表示/違反報告)
きゃめ(プロフ) - メイさん» 上手くいかないですよね…川西さん、気持ち素直に動いてくれたんだけどな…どうぞこの後も見守ってやってください。メイさんいつもありがとうございます。 (2020年8月22日 9時) (レス) id: e2386f9ce6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きゃめ | 作成日時:2020年8月16日 9時