【WT】トリ違い。 (ページ3)

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髪を切った。

女の命を切った。

床に散らばったサラサラのそれは
驚くくらいあっさりと手放すことが出来た。

なんて安い命であろうか。

軽くなった頭を持ち上げて

私は小さくため息をついた。

5月。

さらりと涼しい風が、まだ切ったばかりの髪のカーテンをめくった。

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「先輩、その髪...」

「ああ、似合ってるかな？」

小首を傾げてへらっと笑う。

目の前のモサモサとした男前は、口をぽかんと開けたまま動かない。

「ちょっと、A、何があったのよ！？」

サラサラのピンクの長髪が波を立てる。

突然、ソファから立ち上がった彼女に
私はくすくすと笑いかけた。

「桐絵こそ、そんなに勢いよくどうしたの。」

「どうしたも何も、女の子がそんなにバッサリ髪を手放すなんて...」

心配そうな顔をする桐絵。
全く、勘が良すぎるわこの子。

嫌、けどまあ髪切る理由なんてこんなもんか。

「A先輩？」

京介も心配そうにこちらを見つめる。

「何でも無いよ、ただの気分転換。」

私は、もう一度へらっと笑った。

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誰もいない席を見つめる彼は

ひとつ前の席に座る私のことなど見向きもしない。

彼女が彼の心に残したものは彼女自身で、

彼にとっては些か意地悪で無自覚な

最高の誕生日プレゼントであろう。

ほんと、叶わないなあ。

あなたの心の中にあのこという名の鳥が住んでいる以上、

私には
ほんの僅かも、チャンスなんて残されてはいなかった。

長かった髪を切った。

そしてとても中途半端になった。

想いを断ち切ったつもりで

中途半端な髪同様に、中途半端に想いは残り続けるのだから

「たたの自己満足。」

髪を切る行為で、ただ自分が救われたいだけ。

ああ、彼の笑顔が見たい。

ふと浮かぶ言葉に頭を抱える。

やばい、病気だ。

「」

急にうとうとしてきた。
副作用の副作用だ。

ぷつりと糸が切れた人形のように
今日も私は眠りにつく。

そしてきっと、中途半端な夢を見る。

起きたら忘れてしまうような、そんな夢を。

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