9 -Y- ページ10
.
始めから、知っていた。
ピアノ教室の近くの海を通る時
A様が特別な瞳で、その海を見つめていたことくらい。
なんでもない、とある日。
事故渋滞に巻き込まれ、お迎え時間に間に合わなかった日。
先生のご自宅に到着してインターホンを押すも、先生にはもう家をとっくに出て行ったと言われた。
咄嗟に流れる冷や汗。
執事という仕事を長年続けていても、冷静を失いそうになるこの瞬間。
主から目を一瞬でも離したくないのに、どこにいるかわからないなんて。
急いで車に戻り、発車させる。
もし事故に巻き込まれて、怪我をされていたら。
もし知らない地に迷い込み、不安になられていたら。
もし悪巧みをした奴らに連れ去られ、危険な目に遭われていたら。
あの綺麗な頬に、涙を流されていたら。
最悪な事態が頭をよぎる。
A様、A様。
目を凝らしながらA様を探していれば、姿をすぐに見つけて心から安堵した。
誰かといるようだ。
A様を狙った、不審者だとしたら……！
急いで車から降りる。
近くに駆け寄り名前を呼ぼうとしたが、思わず脚を止めた。
A様が、笑っている。
同年代くらいの少年と、笑い合っている。
A様のあんな笑顔、最後に見たのはいつだろうか。
あれはA様の、心からの笑顔だ。
A様が、あんなに楽しそうに笑っておられるなんて。
連れ戻すなんて、できなかった。
執事とは、主との信頼関係を築き、プライバシーや財産を守る仕事。
しかし何より大切なのは、主ご本人を守ること。
主の幸せを、守ること。
A様が笑顔でいられるのであれば、自分は…………
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 889人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なぽりたん
| 作成日時：2023年3月16日 21時
