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『……結城、』
1台の車と、そのそばに立つ結城がこちらを見ていた。
私と目が合ったのを確認した結城はこちらに向かってくる。
怒られる？と思った束の間、結城はシンタローくんに頭を下げた。
結城「A様にお仕えしています、結城と申します。
A様が大変お世話になりました。
…………ですが」
顔を上げた結城は、今まで私に見せたことのない、冷たい顔をしていた。
結城「A様とは2度と、関わらないでいただけると助かります」
「え……」
『何言ってるの結城。失礼でしょ、謝りなさい』
結城「A様、あなたとこの方では立場が違うのです。
ご自身が京本家のご令嬢だということ、お忘れですか」
「京本、家…？」
わかってるよ。
そんなこと、痛いくらいわかってる。
わかってるから、今この瞬間だけはそのことを忘れて楽しんでいたんじゃない。
『…………………勝手に抜け出してごめんなさい』
結城「おわかりいただけたのならよろしいです」
「…………」
結城「…A様を1人にしないでいただいてありがとうございました」
「………あ、いえ、」
結城「では。行きましょう」
『……………』
「…………Aちゃん！」
諦めて、立ち去ろうとしたその時。
シンタローくんの顔を覚えないように、顔を見ないまま立ち去ろうとしたその時。
私の名前を呼んでくれたあなたの声が、全身を駆け巡って。
立ち止まらずにはいられなかった。
振り返らずにはいられなかった。
「………いろんな話できて楽しかった。ありがとう」
『………私も、楽しかった。ありがとう。
………………………さようなら、』
「………じゃあね」
さっきまでの笑顔とは違う、優しい微笑みでシンタローくんはいた。
胸が熱くなる。
後ろ髪を引かれる思いで、私は結城と共に歩き出した。
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作者名：なぽりたん
| 作成日時：2023年3月16日 21時
