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「足元気をつけて」
『うん、ありがとう』
やっぱり砂浜を歩くのは難しい。
でも今日は、初めてのあの日とは違くて、ちゃんと慎太郎くんが手を繋いでくれているから転びそうにもならない。
夜の海。静かな海。
真っ黒な水と、真っ黒な空と、波の音だけが響くこの光景は本当に異世界に来たみたいだ。
『……っわ、』
「っおい！」
『………えへへ、』
「えへへじゃないって、もぉ」
あれ、転びそうにもならないなんて嘘だった。
足元がぐらついたけど、やっぱり慎太郎くんがしっかり受け止めてくれた。すっごく焦った顔してたけど。
「もう歩くのやめよ、Aちゃん怪我しちゃう」
『……わかった』
その場で足を止めて、海へ体を向けて2人で並んだ。
これからどうかるのかな、私たち。
勢いで飛び出してきちゃったけど、学校とか、そういうこと……全然考えてなかった。
あぁでも、結婚したら学校辞めてたのかな。卒業するの待ってられないかもって言ってたし。
それに、家出した娘にお金なんて出してくれないだろうから、私も働かなきゃいけないかな。
こんな私に、できるかな。甘やかされて育てられてきたこの私に。
真っ暗な光景を見つめているせいで、心の中まで真っ黒になってくる。
もう海を見たくなくてぎゅっと目を瞑れば、潤んだ瞳に耐えきれなかった涙が一粒頬をこぼれて伝った。
「………Aちゃん、」
慎太郎くんに名前を呼ばれて、そちらに顔を向ける。
「大丈夫、俺がついてる。1人じゃないよ」
手を繋いでいない方の手で、頬を包まれて。
「絶対に、俺が守るから」
『…………ありがとう』
私たちが出会ったこの場所で、私たちは誓いのキスを交わした。
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作者名：なぽりたん
| 作成日時：2023年3月16日 21時
