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Aちゃんと電話で話すのも、もう何回目だろう。
耳に入ってくるこの優しい声にはもう、……いや、まだ全然慣れない。
まだ緊張しちゃう。
『今日は久しぶりにお父様と食事したからね、背筋伸ばしっぱなしで疲れちゃった』
「久しぶりなんだ、」
『そう、いつもお仕事でいないから。
変な作法で食べるといちいち怒られるからさ〜、怖いよもう』
「そ、なんだ……いつもは1人なの？」
『そうだよ。近くに執事は誰かしらいるけどね？
だから話し相手になってもらってる』
「そっか、……」
そして話をする度に、つくづく俺とは違う世界に住んでる人なんだって痛感する。
「……でも毎日シェフが作ってる料理食べてるんでしょ？
いいなぁ、美味しそう」
『………そんないいもんじゃないよ』
「え？」
『………1人で高い食事をするより、安くても誰かと食べる食事の方が絶対にもっと美味しい』
だけど、やっぱりお金持ちならではの悩みもあるらしくて。
1人での食事が寂しいとか、自分1人の時間がないとか、常に誰かに見られてるだとか、自分の好きなことをやらせてもらえない窮屈な生活がいかに辛いかということをAちゃんは教えてくれた。
自分には全く当てはまらないその悩みを、救ってあげたいけどやり方がわからないもどかしさというものを人生で初めて感じた。
『慎太郎くんは毎日楽しそうだよね、羨ましいよ』
人からそんな風に言われたことはなかったし、お金持ちのお嬢様から羨ましいなんて言われるとは。
こんな自分の生活に憧れてくれるAちゃんを、こっちの世界に誘いたい、なんて。
良くない。
昔、家で小鳥を飼ってたことがある。
綺麗な空色の羽を持っていて、家族みんなで可愛がっていて大切にしていた。
でも小さい檻の中で広く羽ばたけないのがなんだか可哀想になって、檻を開けてあげたことがある。
もちろんその小鳥は檻から逃げ出して、羽と同じ色の広大な空へと自由に羽ばたいていった。
俺はその小鳥の姿をみて、清々しい爽快感で胸がいっぱいになった。
もちろん家族からは大説教を受けたけどね。
それに似たような感じ。
Aちゃんはきっと、檻の中の小鳥だ。
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作者名：なぽりたん
| 作成日時：2023年3月16日 21時
