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〈あぁ、リムジンだろ？〉
〈ぜってー金持ちだよな〉
〈そういやこの辺にさ、京本不動産のお屋敷があるらしいな〉
樹「マジ？」
〈おぉ、あっちの方の広い敷地にでっけぇ家あるじゃん、あれ〉
〈え、あれって大使館的な公共の施設的な感じじゃねえの？〉
〈へぇ。じゃあその京本さん家の車？〉
〈そうだって俺は思ってる〉
樹「ふーん。さぞいい暮らししてんだろうな」
〈どうせ金持ちなんてお高くとまってひねくれた奴らだろうよ〉
〈絶対そうだよ〉
「………んなことねぇよ」
〈は？なんだよシンタロー〉
「勝手に決めつけてんじゃねぇよ、会ったこともねぇくせに」
〈お前何言ってんの？〉
好き勝手言うこいつらに心底腹が立った。
Aちゃんがどんな思いであんな窮屈な生活をしているかなんて、こいつらにはきっと理解できない。
思ったことをすぐ言う俺の悪い癖だ。
「京本家の人がどんなに縛られた生活してるか知ってんのかよ？
海にも来たことなっ！…………っ、…」
〈………なんだよ〉
樹「お前会ったことあんの？京本不動産の人と」
「……………いや、…なんでもねぇよ。………俺帰るわ」
〈え、おいっ〉
樹「シンタロー？」
早足で、海を去る。引き止めるような言葉を並べるあいつらも、きっと不思議そうな顔をしてるんだろう。
危なかった。全部、言うところだった。
結城さんに口止めされてるだろ。
結城「A様とお会いしたことは忘れてください」
「え…？」
結城「見たこと聞いたこと。すべて、無かったことに」
「なんで、そんな……」
結城「貴方のためです」
「俺のため……？」
結城「そして何より、A様のためです。よろしいですね？」
「…………でも、」
結城「あなたに断る権利はありません。代わりにこれを」
あの日の翌日、急に現れて俺の手に分厚い封筒を握らせた、Aちゃんに結城と呼ばれていたそいつは、ではと一言吐き捨てて俺の前から去っていった。
封筒の中を覗いてみれば思わず封筒を落としそうになるくらいの、数えきれないほどのお札が入っていた。
それだけ、あの子には価値があるってことだ。
いや、こんなんじゃ全然足りないくらいだろう。
きっと、あの子の1時間の価値がこのくらいなんだ。
俺がここで下手に話したら、Aちゃんが………
脳裏から離れない彼女のことが、俺は………
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作者名：なぽりたん
| 作成日時：2023年3月16日 21時
