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35. ページ37

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「…硝子さん、傑と同じ事言うのね。」


「あの馬鹿と同じ思考回路なのは少し癪だが…、吹っ切れたみたいならまあ、良しとしようか。」




そろそろ仕事に戻ると腰を上げた彼女に御礼を伝えれば、お易い御用だと頭を撫でられた。

今度飲みに行こうなと後ろ手に手を振りながら去っていく彼女はやはり頼りになる。

(もや)が掛かっていた気持ちは晴れ、自分の中で考えが纏まった。




「確かに、『比べるもんじゃない』わね。」


「何が?」




虚空に独り言を吐き出した時、誰も居ないと思っていた筈のこの空間に響いた自分のものでは無い声。

確認せずとも聞き慣れたその声は確かに悟のもので、何でもないと腰を上げる。

隠し事をされた事が気に食わないのか少し不機嫌な彼に、一部分だけを話すとしよう。




「傑の事考えてただけよ。」


「…僕以外の男の事考えるなよ。」




随分と難しい要望をするものだと声を出して笑えば、更に不機嫌になる悟。

尚笑うのを辞めない私に手を伸ばし、笑い事じゃないと髪を滅茶苦茶にされた。

あまり謝る気の無い謝罪の言葉を彼に送るが、貴方も十分分かっている筈だろう。




「私達の人生に、『夏油傑』は必要不可欠でしょう?」


「…はっ、間違いねえ。」




…ねえ、傑。

貴方が今此処にいたのなら、どれだけ楽しい日々を送れていたのかと偶に考えるわ。

呪術師としての貴方も、呪詛師としての貴方も、私と悟には何も変わらない『夏油傑』だった事を、生きている貴方に伝えたかった。

謝った道へと進ませてしまった、取り返しのつかない事をさせてしまった。

徐々に変わりゆく貴方に気付きながらも、何も出来なかった自分を今でも悔やんでる。

あれから悟は貴方の言いつけを守って一人称を『僕』に変えたのよ、健気でしょう?

相変わらず唯我独尊な性格だけれど、生徒の前では一丁前に大人ぶるの。

見せてあげたいわ。…嫌、見ていて欲しかったって言った方が正しいわね。

暇があれば魂の姿で逢いに来て頂戴。大丈夫、ちゃんと見つけてみせるから。




「…傑、地獄で元気にやってるかしら?」


「間違いなく、阿鼻地獄に堕ちてるな。」




地獄の中でも最深である地獄の名を出され、不謹慎ながらも笑ってしまった。




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作者名:HamA | 作成日時:2020年10月20日 21時

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