F#51 告白大作戦

#14 ページ15

*


　

「いや、俺は知りたいですよ。柊さんのこと。」

気付いたら口から溢れていた。


でも柊さんのことでわからないことはたくさんあったし、もっと知りたいと思っていたのは事実なわけであって。



それからは、いろいろつまんだり、飲んだりして柊さんについての会話が始まった。


どこの大学を出たとか、出身はどことか、趣味はなんだとか。とにかくたくさん。




「柊さんは何で球団職員になったんですか？」

俺も一つ、気になっていたことを聞いてみる。



柊さんは何故か驚いたような顔をして、それからふわっと笑ってこう答えた。


「それはもちろん野球が好きだからですよ。あと、私高2までソフトボールやってたんで。」



意外だ。柊さんがソフトボール...。



「へぇー、全然知らんかった。」

先輩方も知らなかったらしく、驚きの声をあげている。


「結構強かったんですよー!何回か全国行ってましたし。」



「でも高2までって。...なんでやめたんですか？」



「・・・、」



一瞬息を呑んだのがわかった。



しまった。余計なことを聞いてしまった。

そう判断するには時間はかからなかった。
しかしそれは一瞬のことで、柊さんはまたいつもの人懐っこい笑顔に戻り、


「イップスになっちゃったんですよー。」

「・・・イップス、」


呟かずにはいられなかった。




「はい。どうしようもなんないくらい重症だったからやめたんですよねー。」


「大変やったんやな。」


声のかけ方がわからない俺の代わりに、先輩が答えてくれる。



「でも、結果こうして球団職員として働いてるわけですから!全然なんともないですよ!」


「あ、これ凄い美味しいですよ!」と、柊さんはやけに明るい声を出し始めた。

「お、確かにうまそう。」

中島さんもその言葉に応答する。





多分俺だけではなく、先輩方も気付いていたと思う。



イップスの原因は精神的なことが関係してること。



柊さんが野球をやめた理由はこれだけでないことに。






だから、多分そのせいだ。
柊さんが話をそらし始めたのも、そのことについて先輩方が深く言及しないのも。
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