【川西賢志郎】キレイな心。 (ページ7)

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過ぎた駅ページ7

「アッ！」

彼女が息を詰まらせたように言葉にした。

「え？どうしたん？」慌ててその声に俺も尋ねる。

「えっと、その３つ前で降りるって言った電車なんですけど、降りそびれました」

彼女が俺の目と停止駅表を交互に見つめて言う。

「え？！」当の本人よりも情けなくて大きな声を出してしまった。

どうやら彼女が降りる駅を、２分程前に出発していて今は次の駅に向かっている。

「あかん。やってもーた、俺がずっと自分の話ばっかりしてたからや。」

俺、ダッサイなあ。こんな時まで。

「いや！私が全然見てなかったからです！本当いつもどんくさくて！」

俺に嫌な気一つさせない彼女は、心が優しい人だと改めて感じた。

「ほんまごめんな。えっと、どうやって帰る？さっきの駅と次の駅、距離むっちゃ空いてるし」

「タクシーで帰ります！」

「あ、じゃあ俺に払わせ...」

タクシーに乗ることに大いに促すつもりだったが、所持金が少ないことを冷静に思い出した。

「え？」彼女が不思議そうに聞いてくる。

タクシーに乗せれる程のお金がないなんて言えるわけもない

「あっ！そうや、良かったらやけど俺車で送るで？あと２つ後の駅で降りるけど、構わんかったら乗ってってや」

少し強引なことを言った自覚はあったが、あのまま正直にいうよりはマシだった。

「え、でもそんな悪いですよ、私が降りそびれただけなのに」

「いや、俺がちゃんとしてなかったからや！もう遅いし、な？」

「じゃあ...すいません」

申し訳なさそうに言ってくる彼女をよそに、俺は自分が言い出したことにドキドキしていた。

「ってことは、あのキレイな夜景とか海が見えますよね！楽しみです！」

気を遣っているのか、本心なのかどっちにしろ無邪気で可愛いくて仕方なかった。

あと２つの駅を通過する間に、俺たちはいろんな話をした。

彼女は近くの大学に通う２年生。

今は一人暮らしでバイトが忙しいあまり大学の単位を取るギリギリの学生生活を送っているという

俺の話もした。釣りが好きとかラグビー部だったとか大阪生まれとか。

芸人ということは言わなかった。知られていないと察し、まだまだだなと少し嘆きたくなったからだ。