＊ ページ13
先日まで静かだったのが嘘のように城下町は賑わっていた。
となりを歩く坂田さんの着流し姿の襟がいつもより少し開けていて、無性に心拍が上がっている自分がいるのが情けない。
本当に吉原花魁だったのか？と皆に笑われてしまうだろう。大して花魁であったことに誇りなど抱いていない私にとっては、なんと言われようが今が幸せだからもうそれでいいけれど。
「お腹空かん？」
「んー、甘いものが食べたいです」
「この先に甘味処あるねん！一緒に行こう！」
その大人っぽい立ち姿とは裏腹に、少年のような笑みを浮かべて私の手を引く坂田さん。
この前まで戦で刀を振っていたとは到底思えない。
けれど、私の手を握る彼の手にたくさん残るマメや傷が彼のこれまでを表しているようだった。
甘味処で坂田さんが慣れたようにお団子2つと桜餅2つを注文し、それを受け取ると少し歩いたところの
三人掛けの小さな縁台(＝ベンチ)とまだ蕾の桜の木が一本立っているだけの殺風景な場所。しかし、そこからは城下町の様子から小さな村々の様子まで見渡すことが出来た。
「わぁ、すごい…！」
「やろ？Aにこの景色見せたかってん」
はい、と手渡されたお団子と桜餅はとても優しい味がした。
「初めて会った時のこと覚えてる？」
突然振られた話題は、もうそろそろ1年が経とうとするほど随分前の話。吉原の回り廊下から見ていた桜がこんな近くで蕾を付けているだなんて、あの頃の自分に想像出来ただろうか。
「勿論、覚えてます」
遊郭にあんな入り方をしてきたのは、後にも先にも坂田さんくらいですからね、と言うと彼は悪戯っぽくケラケラと笑う。
「俺、色々考えてん。
うらさんみたいにしっかりしてるわけじゃないし、まーしぃみたいに女扱い上手くないし、センラみたいに頭良いわけでもない。
けど、……俺の気持ちは、やっぱりAにあった」
ドキリと心臓が大きく音を立てた。
坂田さんからの告白擬きは過去に何度かあった。
けれど、これまではどれもいつ相手を失うかわからない、そんな瀬戸際だった。
だけど今は違う。
こうやって、平和が訪れて皆幸せを心から噛み締める中で彼が紡いだ言葉は、これまでの言葉よりも重く深いものだった。
「たとえAが、俺のこと男として好きじゃなくても、ずっと一緒におってほしい。
友達でも、仲間でも、どんな関係でもいいから。だから…」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1160人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
湊 - 更新停止中だと！？めっちゃ面白いし、ハラハラします！！続き気になります！！！ (2021年3月10日 16時) (
レス) id: e6fd04cefe (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - みいさん» ありがとうございます！無事終了して私もほっとしてます(笑)応援ありがとうございます！今後ともよろしくお願い致します◎ (2020年12月6日 9時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - ちょこさん» お返事遅くなってしまい申し訳ございません。私事ではございますが今年大学受験を控えていたため更新お休みさせて頂いていました。先日無事終了しましたのでまた徐々にではございますが更新再開予定です。今後ともよろしくお願い致します！ (2020年12月6日 9時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 紅灯-あかり-＠crewさん» お返事遅くなってしまい申し訳ございません。ほんと個人的な事情なのですが、大学受験を控えていたため更新お休みさせて頂いていました。先日無事終了しましたのでこれからまた更新再開していく予定です◎改めまして今後ともよろしくお願い致します！ (2020年12月6日 9時) (レス) id: b3a866b10f (このIDを非表示/違反報告)
みい - 受験でしたか…！お疲れ様です。更新頑張ってください！。 (2020年12月6日 9時) (レス) id: fd64c2f6dc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：透 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/8ef4f72c271/
作成日時：2019年11月29日 16時
