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次の日。Aは目を覚ました。窓からは日光が差し込んでいる。
「中也さんは……あ」
中也は机に突っ伏して寝ている。書類は机の端に綺麗に置かれていた。Aは椅子にかけられていた中也の外套をかける。
「ベッド、ありがとうとございました…と。よし部屋に戻ろう」
メモを残した後、Aは中也の部屋を出た。扉を占めるのと同時に、煙草の匂いが鼻をくすぐる。振り返ると、初老の男…広津が立っていた。
「え、っと…。一度お会いしたことが…?」
「昨日、首領の部屋で会いましたな。私は広津という者だ」
「えっと、私は「中島A殿」あ、はい。そうです…」
表情が変わらない広津に、Aは困惑する。そして思う。自分は、表情が変わらない人はいろいろと分からないから苦手なんだ、と。
「日が昇る時刻に、幹部殿の部屋から出てくるとは…何か、訳ありということかな?」
「や、やましいことではないです…。ただ…」
「虎に変身した、ということか」
Aは広津の顔を見る。無表情。
「…何人かの部下に聞いただけだ。そう、警戒しなくてもいい」
「…。わ、私、部屋に戻ります」
「そうするといい」
Aは小走りでその場を離れる。広津は、何となく怖い。そう思いながら走った。
ー
「つ、疲れた…」
部屋に戻り、深呼吸をする。大した距離、速さではなかったものの、息切れする自分に少し落胆した。が、すぐに忘れる。
「そういえば…」
ふと、胸元に目をやる。痛みが無くなったことに気づいたのだ。ベッドに腰掛け、包帯を少し外す。
「傷が、ない…」
跡形もなく、傷が消えていることに、Aは驚きを隠せない。虎の力のおかげだろうかと考えながら、一応巻き直す。その時、控えめに扉がノックされた。
「はい」
「A…」
「!紅葉さん!」
Aは自然と笑顔になり、尾崎に抱きつく。尾崎はよろけながらも、しっかりと支えた。
「この部屋の扉が閉まる音が聞こえたのでな」
「もう大丈夫だと思ったので、戻ってきちゃいました」
「其方が無事で、私は嬉しいぞ」
二人はくすくすと笑い合う。
「そうじゃ。A、買い物に行かんかのう?」
「買い物ですか?」
「其方の服はそれだけじゃ。私が選んでやろうと思ってな。鴎外殿が選びたがってたが、幼女趣味には任せられぬ」
尾崎は笑い、Aも嬉しく思って笑った。
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arena(プロフ) - あかりさん» 無言参加失礼しました…。読んでいただいて光栄です!ありがとうございます! (2018年1月29日 7時) (レス) id: eb7b6b7134 (このIDを非表示/違反報告)
あかり(プロフ) - イベント参加ありがとうございます! すごい面白いです これからも頑張って下さい! (2018年1月29日 2時) (レス) id: 59dc504c48 (このIDを非表示/違反報告)
arena(プロフ) - ちゅうや大好きさん» ありがとうございます! (2018年1月28日 13時) (レス) id: eb7b6b7134 (このIDを非表示/違反報告)
ちゅうや大好き - すごく面白いです (2018年1月28日 12時) (レス) id: 2184bb70c3 (このIDを非表示/違反報告)
arena(プロフ) - 瑠李さん» ありがとうございます。自分の作品の内容を忘れてしまう馬鹿ですが頑張ります!笑 (2018年1月22日 0時) (レス) id: eb7b6b7134 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:arena | 作成日時:2018年1月11日 21時