ユートピアに花束を【プロセカ】【短編集】

スタンドバイユー/東雲絵名 ページ9

綿がまるだしになったぬいぐるみ。床に散乱した画材。元の部屋とは見る影もない部屋に、少女がひとり座り込んでいた。

少女は何も見ず、何も聞かず、何も語らない。拳を固く握り、手のひらに爪の痕を残そうが気にもしない。相当精神的に参っている様子だ。

閉ざされた扉がキイと開き、暗闇に光が差し込む。座っている少女の虚ろな瞳がそちらを向く。扉を開けた少女のシルエットが、瞳にはっきりと映った。少女は、少女に話しかける。

「絵名ちゃん」
「……」
「えっと、部屋、あとで掃除しなきゃね」
「……」
「…チーズケーキ持ってきたけど、食べる？」

ガサガサと音を立てながら袋に入ったケーキを絵名に見せる。ちょうどこの間、絵名が食べたいと話していたお店のものだ。

持っていこうとAは部屋に足を踏み入れた。

「入んないで」
「あ、ごめん」

絵名の声で入ることを諦めたAは、一歩踏み入れた足を二歩三歩引っ込める。

従順な姿がいつもは面白いくらいなのだが、今の絵名にはそんな様子ですら腹正しく見えてしまう。

「帰って」
「…でも、チーズケーキ」
「いらない。早く帰ってよ」
「絵名ちゃん……」

足を引っ込めることは出来るのにしぶとく居座るAにふつふつと怒りが煮えたぎっていく。

それでも当たりたくなくて感情を抑え込む。参った心の中で煮えたぎる思いを必死に殺し続け、その苦痛に喚き散らしたくなる衝動も殺す。

全てが嫌になってモンスターと化してしまう前に、早く帰ってほしかった。殴りたくなかった。心にもない暴言を浴びせたくなかった。

しかしその思いは、Aの思いとすれ違ってしまう。

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