ユートピアに花束を【プロセカ】【短編集】

・ ページ8

「私ね、多分あの人と結婚するんだと思う」
「……」
「お母さんは私が男の人と結婚して、赤ちゃんを産んで、そういうことを望んでるから」
「……」
「…みずきはどう思う？そんな私」

どう思う。そうボクに聞いても、ボクがうまく答えられないことを知っているくせに、いじわるだ。

Aはかわいいものが好きで、だからかわいいボクを愛してくれて、ボクはそれが嬉しかった。

でも、ボクを受け入れてくれる人はやっぱり少ないから。
もういいんだと自分に言い聞かせて、それでも心が痛んでしまう。

「Aは、幸せなの？」
「…んー」
「Aが幸せなら、ボクに言えることはなにもないよ」
「みずき」

名前を呼ばれてから一秒もしないで、ボクはキスされた。
ほっぺとかおでことかじゃなくて、ちゃんと唇に。

顔が離れていくと、男の人としていたときはよく見えなかった顔がはっきり見える。

「かわいいね」

幸せそうに笑う。

その顔はボクにしか見れない特権なんだと思うと、馬鹿になった頭は高揚感に満たされた。同時に、痛かった心が更に痛くなる。泣きたいくらいだ。

ボクがこんなに痛いなら、彼女はもっと痛いだろうに、それでもずっと笑みを浮かべていることが、また痛かった。

どうせもう終わりなんだから、泣いて終わりにしてもいいじゃないか。そう言いたくなるけれど、彼女がそれを許さないことを知っていたから、舌の上まで出ていた言葉を飲み込んだ。

「バイバイ、みずき」

下校のチャイムが鳴り響く。そんなの関係ないとでも言うようにした二回目のキスは、なんの味もしなかった。

スタンドバイユー/東雲絵名→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す