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刹那、わたしの身体が大きく揺れた。
先生が肩を強く掴んだからだった。
｢ダメだ！君は生きるんだよ！絶対に！｣
『先生…？』
あまりの必死さに戸惑っていると、先生は少し苦笑して肩を離してくれた。
｢すまない、取り乱した…｣
｢私は君が生きていてくれて本当に良かったと思ってるよ、A｣
────だからそんなこと、もう二度と言わないでくれ
…嬉しかったんだ
家族が死んでから、わたしが生きていたことを喜んでくれた人なんて居なかったから
『先生、わたし生きてていいんですか？』
｢もちろんだよ…生きてちゃいけない人なんてこの世にいない！｣
先生は涙ぐみながらわたしの頭を撫でてくれた。
そして、こう言った。
｢私の家で一緒に暮らそう｣
これ以上ない救いの手だった。
この村にこれ以上いられないし、そもそも家もなくなってしまった。
でも頷けなかった。
『こんな見た目だから…またいつ何がきっかけで悪魔呼ばわりされるかわからない……そしたら先生にも、先生の家族にも迷惑がかかる……』
それだけじゃない。火を放った人たちはわたしごと燃やすつもりだった。
もし居場所がバレて再度火を放たれれば、それこそ無関係の人を殺した悪魔になってしまう。
『先生、ごめんなさい』
わたしは逃げるように走り出した。
わたしを呼ぶ先生の声が聞こえて、慌てて耳を塞いだ。
森まで休まず走り続け、力尽きたわたしはそこでうずくまり朝を迎えた。
───何日経っただろうか。意識が朦朧とする中、再び先生は現れた。
『どうして……』
｢どうしても君を守りたくてね。憲兵団の方に協力してもらったんだ｣
よく見ると先生の背後には、数頭の馬とそれに乗った憲兵団がこちらを見下ろしていた。
｢A。君が折れないのは分かった。だがしかし、せめて私の目が届くシガンシナ区には来てくれないか？｣
街の外れに小さな空き小屋を見つけたんだ、と先生は続ける。
｢一人にさせるのは心もとないけど、ここで飢え死にされるよりかうんとマシだ。｣
先生は綺麗な服を着ているのに、こんな汚いわたしを抱きしめる。
｢必要な物はすべて用意する。食べ物もなにもかも困らせないと誓う。｣
｢ただ、毎日わたしの診療所に顔を出すことだけは約束してほしい｣
気づいたら頷いていた。
そこまで頑固になれなかったのは、ずっと誰かに助けて欲しかったからなのだと今は思う。
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作者名：餃子 | 作成日時：2021年5月23日 4時
