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英雄の凱旋だ───────
街中に響き渡る鐘の音は、調査兵団の帰還を知らせる。
大人たちをかきわけて最前列に飛び出たわたしと目が合った兵士には、右脚がなかった。
──2年前まで、わたしはウォール・マリア南西に位置する中規模な村で暮らしていた。しかし、そこで突如流行った伝染病により家族がみな死に、天涯孤独となったわたしは悲しみに打ちひしがれていた。
そんなわたしを待っていたのは、慰めでも援助でもなく
“悪魔”の称号だった。
｢お前のせいで家内は死んだんだ！｣
｢悪魔はさっさと死んじまいな｣
｢あの目の色は呪いの象徴だ！間違いない！｣
｢なんで優秀な兄貴のほうじゃなくてお前が生きてるんだよ……｣
大人も子供も一緒になってわたしを忌み嫌った。
確かにこの紫色の瞳は、家族とも、周りの人とも違う。
本の中にだって出てこなかった。
…わかっていた。
みんなだって訳の分からない病気で助かる術もないまま死ぬのを待つだけなんて、納得できるわけがないんだ。
そして、この村で家族全員死んだのはわたしだけで、そのわたしの瞳は物珍しい紫色。
“悪魔”に仕立て上げるには十分だ。
なにかのせいにしなければ、正気を保てなかったのかもしれない。
家族が死んで誰より悲しんでいるのはわたしなのに。
そんな“悪魔”のわたしに唯一味方をしてくれたのが、この伝染病に終止符を打つすごい薬を持ってきてくれたイェーガー先生だった。
先生が来てくれたのは、積もり積もったヘイトによってわたしの家に火を放たれたあとだった。
｢この病の発端は、恐らく家畜を正しい処理をせずに食した誰かがそのウイルスをばら撒いたことだ｣
『…そんなことで？』
｢動物は人間とは違って危険な菌を沢山持っているんだ。きちんと処理をして加熱すれば問題は無いから、怖がらなくても大丈夫だよ｣
やさしく微笑む先生は続けた。
｢それにしても、この村の人たちは頭が固い人が多いみたいだね。どれだけ説明しても聞く耳を持ってくれない｣
『…わたしのせいにしていれば、みんな仲良しでいられるから……』
薄汚れた服を握りしめる。
最後に笑ったのはいつだったっけ。
お父さん、お母さん、ルドルフ兄さん、クラウス兄さん……
『わたしも一緒に死にたかった……』
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作者名：餃子 | 作成日時：2021年5月23日 4時
