行間に愛を［Hokuto］

畏怖 ページ7

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数学のテスト中。


担当は松村先生だ！
しかも今日はメガネをかけてる。

かっこいい。うれしい。



喜びが顔に出てしまっていたのか、
教室に入ってきた松村先生は
私を見て、目を細めてくしゃ、と呆れたように笑った。





「はい、じゃあ配りまーす」と言って

問題をチラッと見て
「うおっ…へえ〜、あら！難しそ〜」
って私たちを脅すかのように意地悪を言う。

「ええ〜！！！」
みんな騒ぎ出したから、
松村先生が慌ててシーっと人差し指を口に当てた。





カリカリとシャーペンで計算を書く音、
ペラペラと問題用紙をめくる音。

その中に、
松村先生が読んでいる本のページを
めくる音が混ざっている。





顔を上げると
教卓で文庫本を読む松村先生が見えた。

うすい唇は、きゅ、と真っ直ぐに結ばれていて
メガネの奥に覗く眼差し、鼻筋も

すべて芸術品のように美しい。


「畏怖」って松村先生に使う言葉なのかな、
なんて思ったりした。



目を奪われていると
ふと目線を上げて、松村先生の目が私を捉えた。

少し細められた目。


"おこられる、"
そう思ったのも束の間、

眉間にすこし皺を寄せて
何か言いたげな顔。





でも、何を言いたいか大体わかる。

『集中しろ！』って思ってるんだわ、絶対。


"はーい、"という気持ちを込めて
すこし頭を下げて、またテストに戻る。








テストが終わる5分前。


松村先生が、机の間を縫うように歩く。

まるで月を歩くかのように、
軽く、音を立てずに歩く。


横を通った時、
微かに香った松村先生のにおいが
胸をくすぐって、動揺してシャーペンを落としてしまった。


それに気づいた松村先生が戻ってきて、
シャーペンを拾って机の上に乗せてくれた。



恥ずかしくて、
しばらく顔を上げられなかった。


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