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冴の人生は、サッカー以外ない人生だった。他人に話せるような趣味もなく全てがサッカーに帰結するような人生を別に悪いと思ったことはない。サッカーがあれば他は何もいらない。
そう思っていたはずなのに、自分も知らない感情を呼び起こした女がいる。それを愛しいとも確かに自分の弱点だとも感じていた。
彼女────Aと出会ったのは、冴が天才サッカー少年とメディアで取り上げられ始める少し前のことだった。ボールを転がした方向にたまたま彼女がいて声をかけたのがきっかけだったように思う。
練習をしに河川敷へと向かえばいつもAはいた。何をする訳でもなくただそこに座って空を見ているような、冴からしたら随分と変わった女だった。暫くは互いに話すわけでもなくただそこにいるのを認識しているだけのような日々だった、はずだ。
「なにしてんだ」
興味が湧いて、声をかけた。それは糸師冴を知る人物からすればかなり稀有なことだった。なぜなら冴は根本的に他者への興味がない性だからだ。冴自身がその時点でいつもとは違う自分の行動に首を傾げるくらいには。
興味が湧いた理由、好奇心。それは彼女の纏う空気がどこか凛と似ていたからなのかもしれない。元来兄らしく世話焼きの冴の何かを擽るように放っておけない、目を離せない、そう思わせるような瞳をしていたから。
いつも空だけを映しているそれがたしかに冴を映して───何かが満たされたような、そんな気になった。
日が沈んでいくのを見ているだけだと彼女は言う。それの何が面白いんだか冴には全く分からなかったが、彼女には俄然興味があった。そして、ようやく自分を捉えた瞳が逸らされるのは何だかなという気持ちがあった。
ボールを足元に置いてAの横に腰を下ろす。それは練習の虫である冴には珍しいことだった。一時的とはいえサッカーよりも彼女を知りたいという気持ちが勝ったことが、だ。自分とは違う彼女の見ている世界を見てみたい、そう思った。
特別会話をするわけでもないのに並んで日が沈むのを眺める時間は思っていたより心地好くて。たわいのないことをぽつりと話して訪れる静寂も苦でない。
本当にただ日が落ちていくのを眺めていただけだったというのに、そのとき見た夕日が冴の目にはやけに美しく見えた。
帰り際、彼女は「……またね」と控えめに手を振った。次があることを滲ませたそれがやけに嬉しかったのを覚えている。
名前を聞き忘れたと気付いたのは家に帰ってからのことだった。
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いろは - めちゃめちゃいいところだ、、、！更新待ってます！頑張ってください！ (2023年3月10日 20時) (
レス) @page11 id: d047947d5b (このIDを非表示/違反報告)
M - 続きの話待ってます。頑張ってください (2023年2月7日 20時) (レス) @page4 id: 56a51bd1b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：國枝 | 作成日時：2023年2月7日 16時
