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「…捨てたのか」
U-20日本代表戦後、冷え切った空気の中初めに口を割ったのは凛だった。試合のことも試合後の兄の余計な一言も今は全てを飲み込むことにした。凛は自分を気の長い性格だとは思わないし何なら今にでもキレそうな激情を、Aの泣き顔ひとつ思い浮かべて押さえ込んでいた。
「……あ゛？」
冴はその言葉を受け眉間に皺を寄せて、いつだかの凛と同じような顔をした。それはAからしたらふたりが兄弟であることの何よりの証明だったが生憎この場には彼女が足りない。
言語外に何の話だという顔をした冴に、凛は腸が煮えくり返るような感覚を覚えた。───いい加減にしろよ、愚兄。拳を握った。食いこんだ爪が、痛かった。けれど、それより痛みを感じたであろう人間を知っていたから。
「泣いてたんだよ、どっかの馬鹿がこっ酷い別れ方したせいで」
あんな大事にしてたくせに、何も知らない彼女に愛を教えたくせに。こっ酷く振って、突き放して、それが酷く無責任に見えた。腕の中で安心出来る場所はここしかないと、溢れた涙を拭うこともせずに静かに泣いたAが頭から離れないのだ。我慢せずに泣けと言ったのも溢れた涙を拭うのも冴だった。彼女をそんな風にしたくせに、自分一人の一存で狂わせてやるな。
「……初めて俺の腕ん中で泣いたっつってんだ…どんな気分だよ、なあ愚兄……ッ、は」
凛がAを抱きしめたとわかると、冴はその首を手繰り寄せて「お前こそなにしてんだ、愚弟」と詰め寄った。相変わらず表情の変化に乏しいもののその目は正しく嫉妬に狂った男の顔をしていた。人のものを取るな、そういう目付きだった。
「……っ、んな顔すんなら手放すとかぬりぃことしてんじゃねーよ、死ね」
凛が冴の腹に肘を入れると首の拘束が緩む。そしてひとつ、足りない酸素を補うように深い呼吸をした。腹を抑えながらよろめく冴はよくわからない顔をしていた。───迷子のような顔だと思った。
何を思ってあれほど特別だった彼女を捨てたのか、それは凛の知るところではない。内輪揉めはそこだけでやれよと思わなくもない。ただわかっているのは、今回あまりにも兄が不義理でそれにAが泣いた事実だけだ。それは、凛がどちらの味方をするか決めるのに充分すぎた。
「…………クソみてぇなことばっかしてんなら俺が貰ってく」
精々それを黙って見てろ。
もう言うことは特にないと、凛はその場を後にした。残ったのは何とも言えない淀んだ空気と未だその場から動けない冴だけだった。
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いろは - めちゃめちゃいいところだ、、、！更新待ってます！頑張ってください！ (2023年3月10日 20時) (
レス) @page11 id: d047947d5b (このIDを非表示/違反報告)
M - 続きの話待ってます。頑張ってください (2023年2月7日 20時) (レス) @page4 id: 56a51bd1b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：國枝 | 作成日時：2023年2月7日 16時
