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口の中が不味かった。血の味が舌先に広がって、痛くて、自分の惨めさに地面が揺らいだような気になる。ぐらぐらと不安定な台の上を歩いてるみたい。足を止めたら負けだと思った。……負けるって、誰にだろ。────冴に？私に？
酸素が足りない頭ではなにを考えてもまともな答えは得られまい。馬鹿だな、ここまで来ると愚かだ。
「なにしてんだ」
昔からタイミングが良いのか悪いのか、私に何かあると傍にいるのは、いつも──。
部活帰りの装いをした彼が少し離れた先から私に声をかける、月明かりが凛の黒髪を照らして、それが雪も相まって綺麗だと思った。
怪訝そうな顔をしていると思えばこちらを見た途端に目を見開いて私の腕を掴んだ。凛はいつだって遠いと思っていた距離をあっという間になくしていく。今みたいに。
「……泣いてんのか」
腕を掴んだまま、ぽつりとそう言った。今、言葉を選んでるんだろうな。あんまり引き出しは多い方じゃないから頭を悩ませているに違いなかった。眉間に寄った皺が、いつも凛の考えていることを筒抜けにしてくれる。
「…………、…ないてないよ」
「嘘つくな」
「泣いてない」
泣いてないったら泣いてない。私がそういうんだからつまりそういうことだ。強引にも程がある言い訳をしている自覚はあった。目の奥は溶けそうなほど熱くて、視界は滲んでいる。水の、膜を張っているからだ。自分でも自覚するくらいのそれに目の前にいる凛が気付かないはずがなかった。
「……うるせえ」
ぐいっと力強く腕を引かれて、思考が追いついたと思ったら凛の胸の中にいた。私を包み込む体温と匂いは、ちがう。あのひととは、ちがう。顔も言動も似ているところは目立つのに完全なる別人だ。冴は冴で、凛は凛。重ねるような愚かしい真似はできない。
凛の腕に抱かれてその鼓動を感じながら、このくらい強引に来てくれたらよかったなと最低なことを思った。
冴はいつだって私の王子様で、やさしくて、暖かかった。大事にされているのはわかっていても、優しすぎるからこわかった。───失うのが、こわかった。だからね、こんな風になるなら優しくしないで欲しかったよ、わたしは。
冴があんなに優しくなかったら、きっと好きにならすに済んだと考えている時点で私は救いようがない馬鹿だ。
もっともな理由をつけて自分を守りたいだけなのに、冴のせいにしてごめん。
頬を濡らす何かを凛がその指で掬いながら「……馬鹿ばっかかよ、どいつもこいつも」と深い声で呟いた。
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いろは - めちゃめちゃいいところだ、、、！更新待ってます！頑張ってください！ (2023年3月10日 20時) (
レス) @page11 id: d047947d5b (このIDを非表示/違反報告)
M - 続きの話待ってます。頑張ってください (2023年2月7日 20時) (レス) @page4 id: 56a51bd1b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：國枝 | 作成日時：2023年2月7日 16時
