11話 ページ11
私の家は曽祖父の代から続く、貸本屋だ。
父と母の間に生まれた子はたった一人。男の子を跡継ぎを、と散々言われ続けやっと生まれた子が私だったらしい。
身体の弱かった母を祖父母や親族は何かある度に責めていたが、毎回父が守っていた。
『A、お前がいい年になったら婿を貰って、ここを継ぐんだよ』
『むこって何?』
『旦那さんだよ。その時になればお祖母様が見繕ってあげようね』
まるで呪詛のように、毎日聞かされる言葉は子どもの私の思考を奪う。
私の未来とは、この時から決まっていた。
私はここを継ぐ。その為の手習いも受けていたし、私はその為にあるのだと思い込んでいた。
よく勉強すれば家族は皆褒めてくれる。当時の私にとってはそれが幸せで、正しいことだった。
近藤さんはうちに店に軍記物の本をよく借りに来る常連だった。
総ちゃんと初めて出会ったのは、このことがきっかけだ。
初めて会ったその時はお互い何も喋らなかったが、その後も総ちゃんが近藤さんに連れられてやって来たり、私が道場へ使いに走ったりしているうちに段々と仲良くなっていった。
この出会いは私の世界を大きく変えることになる。
道場へ行っては、そこら中を二人で駆け回った。兄弟子に負けないようにと鍛錬に励む総ちゃんを、夕方まで見つめていたこともあった。
総ちゃんといる時間は大人しく家で手習いを受けるよりずっと楽しくて、私の中で手離したくないものになっていた。
『帰りたくない、まだ遊びたい』
『はあ?わがままだなあ』
帰り際、愚図り出した私に総ちゃんは呆れたような声を出した。
『だって、総ちゃんといるのすきだし、はなれるのいやだし』
店のことを忘れたわけではない。自分がしなきゃいけないことも分かっている。
だからこそ、初めて見つけた私だけの感情をどうしていいか分からなかった。
『じゃあ、いつか僕がAをおよめにもらってあげる。そしたらずっと二人でいられるから。…それじゃだめなの?』
総ちゃんの言葉はあまりに非現実的で、だけど私の心に湧き上がるような嬉しさをもたらした。
そんな好ましい、素敵な未来は総ちゃんと迎えられるだろうか。それまでなら無理だと思っていたかもしれないが、私は否定したくなかった。できるならそんな未来が欲しい。
『ほんとに?およめにしてくれるの?』
『そんなに聞かないでよ』
『えへへ、ごめんって』
総ちゃんは少し赤くて、それが嬉しかった。
あの時の夕焼けの煌めきを私はずっと忘れられない。
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あめ(プロフ) - 帰蝶さん» ありがとうございます…!私が泣いて喜びました;;;;コメで元気もらえました、頑張ります! (2021年7月23日 10時) (レス) id: c4879c790e (このIDを非表示/違反報告)
帰蝶(プロフ) - 初めまして!とても面白かったです!沖田さん好きなので是非お時間ある時に続きを書いていただけますと泣いて喜びます!陰ながら応援しています! (2021年7月20日 1時) (レス) id: 8097c0e74f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あめ(雨星) | 作成日時:2021年4月26日 9時