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「家出なんて一言も言ってないだろ」

「そうだけど…じゃあ何?引っ越すの?」

君は俯いて唇を尖らしている

言葉は思わず矢継ぎ早になってしまう

「家族の都合?転勤とか?県内?県外?」

君は相変わらず下を見たまま答えない

こういう時

思考はどんどん暗い方へ傾く

…まさか…ひょっとして…

「ねぇ…不治の病いとか そっち系?」

「そんな訳ないだろ!漫画の読み過ぎだよ」

やっとこっちを見た君の瞳は

落ちそうで落ちない雫でみなもを湛えている

しばらくの沈黙の後 君はようやく呟いた

「理由…知りたい?」

僕が大きく頷くと

君が浮かべるのは複雑な顔色

心の葛藤がより鮮明になって揺れ惑う

君は自分に言い聞かせる様に

何度か何か呟いてゆっくりと歩き出した

「待って!今度は何処行くの?」

そう呼びかけても君は歩みを止めない

僕は覚悟を決めて君の後を着いて行く

暗くて引き摺り込まれそうな畦道から

段々と増えていく明かりの灯る家々

やがて見慣れた景色に視界は切り替わり

ようやく君は足を止めた

「…ここは…」

僕の瞳に映るのはだだっ広い更地

そして…『売地』の文字

この場所にはつい最近まで

古いけど立派な日本家屋が建っていた

離れや蔵がある昔ながらの平屋建て

たくさんの木々が

バランスよく配置された広い庭

かくれんぼしやすい場所だったなぁと

まるで遥か遠くの出来事の様に思い出す

ここは僕にとっても想い出深い場所

同じ幼稚園 同じ小学校に通う

仲良しの幼馴染が住んでいた所だった

ずっと一緒だったから

このまま続くと信じて疑わなかった

腐れ縁だからきっと来年も同じ中学で

そして高校も大学もきっと一緒だね

なんて話していたけど…それは叶わなかった

幼馴染は一学期の終わりと共に

都会へと引っ越して行ったのだ

立派とはいえ老朽化が目立つ屋敷

そこで降りた父親の転勤の辞令

様々な選択肢を考えていたが

既に祖父母が亡くなった状況で

人が住まないまま家屋を維持するのは困難

売却して引っ越すのは致し方ない選択だった

「手紙書くからね!また遊ぼうね!」

「うん!僕の事忘れないでね!」

男は簡単に泣いちゃいけないって

父さん言っていたけど

涙は後から後から溢れて止まらなくて

車が見えなくなるまで手を振りあったっけ

僕の夏がいつもより

つまらなく感じていた原因は

いつも一緒にいた幼馴染がいないせい

他に友達いるし数も多いと思うけど

…そういう事じゃないんだ…


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作者名:青山白樹
作成日時:2021年1月11日 10時

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