トーストと目玉焼きと、コーヒー２ (ページ35)

今日:25 hit、昨日:15 hit、合計:35,941 hit

85. ページ35

「でもAは一人じゃないやん」

濵田さんが私の肩に手を置く。

「消えてなくなりたいAを望が助けてくれた、そして何よりAの幸せを願いたくて今一緒にいる俺らがおる」

濵田さんの言葉は力強くて優しい。私は何度も頷いた。

「悲しい気持ちを忘れろとは言わん。せやけど今は、Aの誕生日を祝わせてくれんか」

「うん…！」

顔を上げた私に、濵田さんはにっこりと笑った。隣では、流星がタルトにロウソクを挿している。

「あのー、流星。それ深く挿しすぎちゃう？」

「いけるいける。これくらいの方が安定するから…」

着火すると、案の定フルーツが焦げた。それを見て私は大笑い、濵田さんは珍しく怒り(手作りだったらしい)、流星は知らんぷりして焦げたフルーツを取り除いていた。

「26歳、おめでとう」

流星は跪きながらブーケを渡してくれた。プロポーズみたいで照れてしまう。香水といいブーケといい、女性の趣味をよく理解しているなあと感心した。

「幸せな時間が続きますように」

濵田さんはリボンを解いて箱を開けてくれた。文字盤に小さなダイヤがあしらわれた華奢な腕時計。付けてみると、左手がグッと華やかになった。

「嬉しい…本当にありがとう」

久しぶりに、心から笑えた気がした。