トーストと目玉焼きと、コーヒー２ (ページ14)

今日:24 hit、昨日:15 hit、合計:35,940 hit

64. ページ14

結婚。

上手に返事出来なかった私に重岡さんがふっと表情を崩す。

「急にそんなこと言われても、って感じよな」

「いや、違うの。…違わないか」

「どっちやねん」

重岡さんは笑いながら私のおでこをペシンと叩く。思わず目をつむると「ごめんごめん」とそのまま撫でてくれた。

「Aちゃんは結婚願望ないの？」

「あります！」

食い気味に答えると、重岡さんは目をぱちくりとさせてからまた笑った。

「Aちゃんの子ども絶対可愛いわ」

「先走りすぎだよ」

「女の子やったら色白くて人形みたいな子生まれんで」

「…」

重岡さんは酔っているのだろうか。恥ずかしげもなく甘い言葉を並べて。私の気持ちを知ってか知らずか。

「こんなことばっかり言うたら嫌われるわ」

ひとりでにふふふと笑うと、重岡さんはお皿に残っていた枝豆をつまみ始めた。

嫌うことなんてない。本当はもう心の中に伝えたい言葉と、伝えられたい言葉があるのだ。

帰りは反対方向にも関わらず、重岡さんが駅まで送ってくれた。

「今度は休みに一日出かけよやあ」

少し舌ったらずな甘い声で、重岡さんは嬉しい嬉しい約束を取り付けてくれた。

夢みたい。私、このまま重岡さんと付き合うのかな。

ホームのベンチに座り余韻に浸っていると、誰かが改札からの階段を降りてくる音が聞こえてきた。何気なく目をやると、見覚えのある猫背の青年がこちらに歩いてくる。

まさか。

しばらくすると、頭上に影が落ちて、私は恐る恐る顔を上げた。

「…久しぶりっすね」