恋とWEST (ページ10)

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先生 J ページ10

「またこれ」

「お前暇やろ」

職員室に行くといつもこうだ。

「A」と呼び止められて、次の授業で使うプリントを持たされる。

「暇じゃないから職員室来たんですけど！」

「ほー、そうかそうか」

生物科の中間先生はテキトーだ。

消化器官の単元で爬虫類の話をして1時間を終えたりする。

昨日は電車で鉢合わせた美人の話で15分は使った。

「中間先生」

プリントを抱えて一緒に廊下を歩く。

「なんや」

「中間先生は結婚しないの？」

「したらA寂しいやろ」

予想外の返事に、私は中間先生を見た。

中間先生はいつも通り、眼鏡の奥の目が座っている。

「なんや」

「寂しくなんか、ないもん」

「ほんま？」

その会話を最後に、中間先生は私にプリントを持たせることはなくなった。

次の年の春、中間先生は異動になり結婚したことを知らされた。

あの時、素直に寂しいって言えばよかったんだろうか。

「Aー」

新しく来た生物科の神山先生は、中間先生と違って若いし優しい先生だった。

「なんで下の名前知ってるんですか？」

「中間先生から聞いててん。可愛がってた子やねん、大事にしたってなって」

中間先生。

もう一回、プリント持たせて下さい。