恋とWEST (ページ6)

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会社の上司 A ページ6

私には好きな人がいる。

新任の時、ずっとついてくれた桐山さん。

肌が黒くて、声も体格も大きくて、最初は怖い人なんじゃないかと怯えてたけど、

いつも明るく笑ってくれて、困ったときは必ず助けてくれる桐山さんが大好きになった。

仕事を失敗した日は一緒に残業してくれて、遅くなった日は最寄りまで送ってくれた。

お互いチームが変わり、今日は久しぶりに帰りが同じで、桐山さんは声をかけてくれた。

「ほな、一階降りといて」

そう言われて、私は懐かしい道を辿って桐山さんの車を待つ。

「久しぶりに飯でも行こか」

「年度末に、トンカツ食べに行きましたね」

「懐かしいわあ。今はタイミングないからな…」

そう言ってハンドルを回す桐山さんの指に、綺麗な綺麗な指輪が光った。

「今日は奥さんいないんですか？」

「おう、飲み会で朝までコースやからな」

横顔も、少し窮屈なシャツも、シーサーのキーホルダーも変わっていないのに、たった一つの指輪だけがきらきらと輝いて悲しかった。

「今週頑張ったし、なんかええもん食べよな」

「食べましょう」

私には好きな人がいる。でも、叶わない。