恋とWEST (ページ15)

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隣人 T ページ15

煙草の香りがすると、濵田さんが帰宅したことを知る。

私は前髪を手ですくと、ジュースの缶を片手にベランダに出た。

「…お疲れさまです」

ベランダで煙草を吸う彼に声をかけると、濵田さんは私を一瞥して煙を吹いた。

「お疲れさん」

「今日は早かったんですね」

「週の真ん中やからはよ帰ったろー思って」

私は濵田さんをずっと見つめているけど、濵田さんは私ではなく遠くの空に目をやったままだ。

名前と、煙草を吸うことしか知らない隣の人。

「はよ入りや、蚊刺されんで」

向こうから話しかけてきたりすることはないけど、小さく割った蚊取り線香を渡してくれる優しさは知っている。

「あんた学生やろ、明日起きられへんで」

「明日3限からなんで」

「ええのう、俺も学生戻りたいわ」

煙草の火をサンダルで消すと、濵田さんは一つくしゃみをした。

「ほな、おやすみい」

「おやすみなさーい」

濵田さんはおやすみと言っても、実は部屋に入らずベランダにいることを私は知っている。

今日は返事だけして、様子を伺ってみた。

「はよ入れや」

低い声がして、私は少しだけ震えた。

「何を企んどんねん」

「濵田さんのこと気になって」

「俺のことそない好きか」

「好きです」

すると、濵田さんは柵から身を乗り出して私の頭を引き寄せた。

「これでええか。おやすみ」

私はこの夜、濵田さんにファーストキスを奪われたのだった。