Episode71 ページ34
サンダルフォンは一人自室で、Aの言っていた言葉を思い出していた。
『安心しろよ。別にもう終わらせるとかそういうのないからな。今は楽しければいいよ』
その言葉には、抑え込んでいる感情が容易にわかる。造られたのが早いAは多くの事を経験し、今の姿を作り上げてきた。その時の中で抑え込んできた感情の多さは想像に堪えない。
「…俺は、天司長なのに」
役割の与えられた今、全うできない歯がゆさにいら立つ。
「役割がほしい、か…Aは役割を自分で得て、こなしてきたというのに俺は…」
握りしめる拳は痛みを発するだけで何も生み出さない。気を失って倒れていくAの姿と、自分に託して死んでいった姿が重なる。それが恐ろしく、頭の中にこびりつく。
「クソ…俺は、誰一人救えないのか…」
「そんなことはないよ」
「…団長」
扉を開けて入ってきたのはグランで、その手には剣が握られていた。
「修行をしていたのか？」
「うん。カタリナがつきあってくれてたんだ」
「そうか…」
「…ねえ、サンダルフォン」
グランは真っすぐと目を見る。研ぎ澄まされたその視線に思わず目が離せなくなる。
「Aは、ずっと前から苦しんでたっていうなら、ルシフェルさんでも出来なかったってことだよね？」
「…いや…わからないな。少なくとも、あの御方なら何かいい方法を…」
「今の天司長は誰なの？ルシフェルさんなの？」
「…今の、天司長…」
グランの言葉が突き刺さる。握りしめた拳を見つめると、その痛みは自分のものであることに気が付く。
「サンダルフォンはサンダルフォンだよ。君がルシフェルさんの真似をしても、Aは喜ばないよ。だって、君が封印されてる間も、ずっと危なっかしいことしてたんでしょ？自分から吸収されにいっちゃうぐらいなんだ。それだけ、サンダルフォンはAの中で大切なんだよ」
「…俺が」
グランにはっきりと言われ、むずがゆくなる。
「でも、確かに何かそれぞれ抱えるものはあるんだ。ルリアやビィが何者かを考えるように、Aも誰にも見られたくない黒い感情があるのかもしれない。きっと、隠したいのは信用してないんじゃなくて、そうせざる負えないんだよ」
「…なぜ、そう思う？」
「うーん…だって、Aは正直だから。例えば、Aの理想を叶えるために行動して、その結果が自分の望まないものだとわかってたら、叶えないんじゃないのかな」
「…」
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作者名：御煉 | 作成日時：2019年4月7日 14時
