油断 ページ8
いつも通りにメンバーの皆さんがチェックアウトした部屋を順番にまわり、最後の一部屋の清掃をし終えた私は少し休憩しようと、掃除用具もそのままに窓側に設置された椅子に座っていた。頭を窮屈にしていた髪ゴムをほどいて少し雲行きが怪しくなってきた空を見上げながら明日からの休暇を想像していたその時。
ガチャ、とドアが開く音が聞こえた。
ルームキーがなければ開けることのできない部屋だ。このホテルの従業員かマネージャーさんが入ってきたのかと思いドアの方を見ると、そのどちらでもなく最近やっと覚え始めたセブンティーンのメンバー、ジョシュアさんが立っていた。
なんで部屋に。
そう思ったがすぐさま立ち上がって放置していた掃除用具を片付けながら、平然を保ちつつ彼に話しかける。
「お客様、いかがされましたか?」
清掃のときは作業着を着ているから一般人とは思われないし、バイトで身に付けた営業スマイルを駆使すればなんとかこの場を乗り切れるはずだ。彼がこの部屋に来た理由がなんであれ無用な接触をしないよう一刻も速くここから離脱しなくてはいけない。
「あの、忘れものを取りに来たんですけど…」
と、部屋を見渡しながらジョシュアさんは言う。
忘れ物?私が見た限りではどこにもなかったが、見落としていたのだろうか。
「何をお探しですか?」
「えっと、」
営業スマイルを貼り付けて尋ねると、答える前に彼の手元のスマホが着信を知らせる。
「すいません」
会話の途中だったからか律義に謝って電話に出ると「…分かった。じゃあ戻るよ」と一言二言話して切ってしまった。
「ごめんなさい、忘れもの見つかったみたいです。ルームメイトがなくしたって慌てていて部屋まで探しに来たんですけど」
苦笑しながら状況を説明してくれたジョシュアさんに「そうでしたか」と返事をする。このまま帰ってくれるかなと彼を見ていると、ふと彼のアーモンド形の猫のような瞳がこちらを見つめていることに気づく。顔を覚えられては後々面倒なことになりそうなのでなるべく目を合わせたくなかったというのに。
「あの、」
私が視線を逸らす前にジョシュアさんがこちらへ近付きながら話しかけてくる。だんだん近くなる距離に身体を強張らせながら、忘れもの以外に何か聞きたいことでもあったのだろうかと思っていると。
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作者名:曄雨 | 作成日時:2019年11月26日 4時