あくまでも客室清掃員 (ページ1)

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きっかけページ1

私の仕事はビジネスホテルの客室清掃。
しかしただの清掃員ではない。

"セブンティーン専属の客室清掃員"だ。

アイドル事務所プレディスに所属するボーイズグループ「SEVENTEEN」。
彼らの活動は韓国のみならず海外にも及ぶ。その際必ず彼らはホテルに宿泊するのだが、ワールドツアーのソウル公演のために泊まっていたホテルで、私が彼らの専属清掃員になるきっかけとなった出来事が起きる。

当時大学4年生だった私は、大学2年の時から続けているホテルの客室清掃のアルバイトに夏期休暇の大半を費やしていた。当然就職活動もしながらだったが、なかなか内定がもらえずやけになっている時期でもあった。

そんなある日、いつも通りにチェックアウト後の客室を清掃していると、一面鏡ドレッサーの上にノートやファイルなどが数冊置かれているのを見つけた。お客様の忘れ物はよくあることなので係の人に届けておこうとそれらを手にしたのだが、ファイリングされずにただ挟まっていただけの紙がバラバラと床に散らばってしまった。ファイルの役目を果たしていないそれに苛立ちながら紙を拾おうとすると、手書きでびっしりと文章が書かれているのが目に入る。よく見てみるとハングルと英語が混じっている文章だ。音楽には疎い私だが韻を踏んでいるように見えるので、何かの歌詞なのだろうか。少し気になって他の紙もパラパラと眺めていると、バタバタと大きな足音を立てながら息を切らして誰かが部屋へ入ってきた。そして私のことを見るなり、

「おい！それ、見たのか!?」

とスーツ姿のメガネをかけた男性がこちらへ迫りながら聞いてくる。
私は突然のことに驚きすぎて声も出ない。

「見たんだな？」

再度男性が聞いてくる。
おそらく私が今手にしている紙のことを指しているのだろう。男性の気迫に押されて思わず頷いてしまう。それを見て深く溜息をつく男性。

この紙は見てはいけないものだったのだろうか。
目の前の男性があまりにも深刻そうな顔で考え込んでいるので、申し訳ない気持ちと何か償わないといけないのかという不安が押し寄せてくる。

嘘でも見てないって言えばよかったかな。
いやでも、後々嘘だとばれた時の方が罪が重い気がする。

それにしても歌詞が書いてあるだけの紙を見たくらいでそんなに慌てるものだろうか。

「君が見たのは、うちのアイドルの未発表曲だ」