袖時雨 ページ11
her side
その日は、酷く憂鬱な日だった
3年間付き合っていた彼氏に振られ
泣きながら彼の家を飛び出たその日に
彼と出会った
涙を拭いながら、帰り道を歩いていると
突然の春時雨
傘を持っていなかった私は、直ぐ側に会った喫茶店の軒下に逃げ込む
暫く雨宿りさせてもらうことにして、水を吸った服や髪を絞っていると
キィ……
「わぁ……急に降り始めたな」
そう言った、綺麗な金髪に
春の穏やかな青空のような瞳を持った彼と、目があった
暫く無言で見つめ合うと、彼は急に視線をそらし
駆け足で店の奥から、タオルと青い折り畳み傘を持って出てきた
「びしょ濡れじゃないですか!女性が体を冷やしちゃいけませんよ」
春の日だまりのような香りのするタオルに包まれる
優しく髪を拭いてくれる彼の手付きに、止まったはずの涙が溢れ出た
あぁ、しまった、困らせてしまった
私は逃げるようにお礼を言って、その場を立ち去ろうとする
そんな私に、彼は持っていた青い折り畳み傘をしっかり握らせると
そのまま、笑顔で見送ってくれた
あぁ、どうしよう、どうしよう……!
恋、してしまった
さっきまで、フラれて泣いていたというのに
なんて、浅はかな女なのだろう
………………傘、返さなきゃ
明日、明日……
あぁ、今日も返せなかった
また今度、また今度
また今日も、返せない
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作者名:ケト。 | 作者ホームページ:
作成日時:2019年6月17日 17時