27 ページ27
Oside
廃工場の中は冷たい空気が立ち込めていて、鉄の錆びた匂いが風に乗って鼻を掠めた
カツン、カツンと一人分の足音を響かせながら工場の中央まで来ると、俺は入り口に視線を向けた
「いつまで隠れてるの？出てきなよ」
いつもの口調で自然に言うと、案外あっさりとその人物は姿を表した
しっかりとした体格で、身長も俺より頭一つ分ほど大きい男が、堂々と工場に入ってきた
「さすがは大野組のトップ、だな」
「そりゃどうも」
尾行してきた割には、まるで友人と接する様に話しかけて来る男は、当然ながら俺の事を知っているようだ
「あんたは俺を知ってるみたいだけど、俺は知らねぇぞ」
「ああ、俺は松岡だ、よろしく」
すんなり名前を名乗った男…松岡は、日に焼けた肌がよく似合う男だった
「俺に何の用？」
回りくどい聞き方は苦手だった
そういうのは全部翔くんに任せてたから、俺は、相手の出方を見てからとかそういう方法が分からなかった
「タブレットを抑えたのはお前らだよな」
「タブレット？」
「ああ、LSDの事だ」
つまり、松岡は吉本組の構成員か…
警察って感じじゃ無さそうだし、何よりもその瞳がただ者では無かった
まるで心を読んだかのように、松岡はひょいっと肩をすくめて見せた
「そちらさんの活動源が一つ潰れたね」
警戒を強めて挑発するように笑いながら言うと、松岡の方も警戒を強めたのか、声に固さが生まれた
「荒れるぞ、この辺りのシマは…
今のうちの組長は吉本組の拡大が目当てだからな」
「だろうね」
「…一つ、教えといてやる」
そう言うと、彼はくるりと背を向けて歩きだした
「今の吉本組の組長は形だけだ
活動のほとんどは、若頭の山野圭太という奴が取り仕切っている」
「…その情報、信じる証拠は？」
そう問いかけると、松岡は振り返ってニヤリと笑った
「相葉に聞け」
思わず目を見開くと、その反応が面白いのか、彼はクックッと耐えきれないというように肩を震わせた
「気を付けた方がいいぜ
相葉は、誰の味方でもない」
そう言った松岡の瞳は面白そうに柔らかいのに、奥に鋭さを孕んでいた
その瞳に一瞬だけ、相葉ちゃんの瞳が重なって見えた
それを認めた瞬間、苛立ちにも似たむず痒さが身体を稲妻のように走り抜けた
「俺は、相葉ちゃんの仲間だよ」
遠ざかる背に向かって、俺は思わず宣言した
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 247人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
櫻宮 - もちろんです！！楽しみ！！ (2020年7月11日 13時) (
レス) id: 95d5f07b44 (このIDを非表示/違反報告)
エリン(プロフ) - 櫻宮さん» コメントありがとうございます！相葉と二宮の関係がはっきりするのはもう少し先になるかと思います。ご想像とは違う形になるかも知れませんが、今後の展開も楽しんで頂けたら幸いです (2020年4月11日 23時) (レス) id: c94e130b17 (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮 - 相葉ちゃんとにのちゃんは昔から仲が良かったのかな？という勝手な妄想を膨らましてる櫻宮です。お話がどんどん急展開してきましたね。凄く続きが読みたくてうずうずしてます！ (2020年4月11日 12時) (レス) id: 95d5f07b44 (このIDを非表示/違反報告)
櫻宮 - もちろんです！彼の存在が吉と出るか凶と出るか。楽しみです！！ (2020年3月18日 12時) (レス) id: 95d5f07b44 (このIDを非表示/違反報告)
エリン(プロフ) - 櫻宮さん» とっても嬉しいお言葉を送って下さり、ありがとうございます！その様な風に評価をして下さる方がいらっしゃると思うと感激です…！これからも更新は遅いですが、よろしくお願い致します (2020年3月17日 21時) (レス) id: c94e130b17 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エリン | 作成日時：2020年1月19日 21時
