そよ風と黒髪◈哲平 ページ16
稲妻魔人任務ネタバレ有
抵抗軍の勤務にも一応非番があり、休みの日に私はよく海祇島の崖の上で景色を眺める。
抵抗軍の中には前線で戦う者もいれば、後方支援にあたる兵もいるのだが、私は後者の後方支援担当だ。
「……ゴホッゲホッ…あぁ、ちょっと仕事の疲れかなぁ…」
実際に出向いて戦うことは無いため、命の危機というものを感じたことがない。
「よっ、A久しぶり！」
後ろを振り返ると、かつて一緒に後方支援を担当していた哲平が立っていた。
「え、なんで哲平いるの」
確か哲平は戦う兵士に昇格し、その後も前線で戦う許可が出て、今は海祇島にはいないはずである。
「とある新入りを海祇島に案内してたんだ、そしたら君の姿が見えたから」
「そっか、おかえり」
哲平はにこやかに笑い私の隣に腰を下ろした。
「それでね、案内してきた新入り凄いんだよー、旅人なんだけどめっちゃくちゃ強いんだ！僕は相棒って呼んでて、この間も──」
哲平が腰を下ろしてしばらく、ずっと楽しそうに新入りもとい旅人の話をする。
「それはすごいね」
私は哲平のそんな姿を見て笑顔になる。なんだか一緒に仕事をしていた昔に戻った感じがしてとても嬉しい。
でも少し私の話もしてくれてもいいんじゃない？と思ったのは内緒だ。
「……あれ、どーしたの？」
「え？、なにが？」
「なんか不機嫌？」
「いやいや、そんなことないよ、話、続けて」
「うーん……」
哲平が顎に手を当て考える仕草を少しした後、えい！という掛け声と共に私の事を後ろから包み込んだ。
「て、哲平！？」
「…A、新入りに、嫉妬した？」
意地悪そうな声で私の顔を覗き込んでくる哲平はなんだか嬉しそうな顔をしている。
「………」
「ふはっ、なんで何も言わないの？」
「いや、別に、そんなんじゃない」
「素直じゃないなあ」
そう言って哲平は私を抱きしめたまま左右に揺れる。その揺れと崖の上にそよぐ風が心地よくて眠気を誘う。
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作者名：たろ | 作成日時：2022年9月22日 20時
