phase4 ページ5
*
「 心因性発声障害? 」
「 五年前からよ 」
「 !! 」×3
“ 五年前”のあの嵐
全ての人々に深い傷を負わせた厄災
「 あの子、Aは姉夫婦の一人娘なの
今となっては私のたった一人の肉親 」
Aと呼ばれた桜色の少女
ルプスとベイリーの視線と意識は少女と傍らにいる金色の獅子に向けられ、
必然的にキサラギがマダムの聞き役に回った
「 たった一人とおっしゃるのは、まさか? 」
「 ええ、あの嵐で二人は亡くなり、Aだけが生き残ったの 」
マダムの話では、親子でシェルターに避難しようとした際、夫妻だけ嵐に吹き飛ばされという
「 でもね、Aもシェルターにはたどり着くことは出来なかったの
なのに生き残った。 ただの偶然?
運が良かったなんて言葉では片づけられないでしょ 」
「 …これは私の推測ですが、あの金色の獅子ですか? 」
「 私が探しあてたとき、あの子はバケシシの脇腹にうずくまっていたわ
己の身を盾にして護ってくれたのね
その時すでにAの声は失われていた 」
目の前で両親が消え、豪風・轟音にさらされ続けた
嵐が過ぎ去る間、
叫んだのだろうか?
泣いたのだろうか?
諦めたのだろうか?
幼い心では処理できなかったのだろう
死と隣り合わせの中唯一護ってくれたのが金色の獅子
「 でも彼は実体ではありませんよんね? 」
「 そうね、最初は私も驚いたわ。Aがバケシシにとり憑かれたって
一応お祓いなんかしたけどね、なかなか手強くて…
もう同居人ならぬ同居獣よ! 」
追い払えないと悟ったマダム
彼女が凄いのはここからで、ならばと姪であるAのお世話係に獅子を任命
しかもAの就寝後は
「 私の晩酌につきあってもらってるわ 」
「 え? ば、ばんしゃく? 」
…ですか? 数拍おいてとってつけた語尾
キサラギの動揺がうかがえる
「 ボトル何本も開けるわよ。 ビーフジャーキーをお供にね 」
「 はぁ… 」
もう、どう会話を広げていいのかわからないキサラギ
少し離れた場所で、ベイリーがマカロンを獅子に投げつけ遊んでる
嫌がることなくマカロンを尾ではたき口に放りこむ獅子
それを見て喜ぶA
二人と一匹を複雑そうに見つめるルプス
戯れに参加するでもなく、ただ見守るかのように
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作者名:姫保 | 作成日時:2021年7月29日 10時