僕の後輩は鬱陶しい【kwmr】 (ページ30)

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チャンスは掴むものページ30

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　福良さんから「お大事に」と返信が来たのを確認して、スマホを持った手をベッドに放り投げる。

　今日は私も関わらせてもらった企画の会議だったから、ずっと楽しみにしてたんだけどな。
　なんでこういう時に限って、私は体調を崩すのだろうか。
　運はある方だと思ってたのに。

「あのさ、ねぇさん」
「んー、なにー」

　具合が悪い中で出来ることなんて、精々赤ん坊と同等のことくらいだ。
　いっぱい食べて、いっぱい寝る。
　業務連絡も済んだので後は寝て過ごそう、と寝返りを打つと、丁度優斗が寝室に顔を出してきた。

　彼の手には新作のゲームとやらが握られていた。
　注文してから届くまでのスピードに、思わず流石ジャングル、音速かよ、と関心する。

　そんな私を見ていた優斗は、何気ない様子でとんでもない情報を私に教えてくれた。

「今さ、外に眼鏡かけた男の人立ってたんだけど、ねぇさんの知り合い？」
「え？……待って、どんな服装だった？」
「いや、普通に黄色いカーディガン着てたけど」
「髪は？こう、もじゃもじゃしてた？？」
「 ……まぁ、してたと思うけど」
「ちょっと私出てくる！！」
「は？！ちょ、ねぇさん！！」

　優斗が言っている人物は、間違いなくあの人だ。

　私が、いつだって、会いたくて会いたくて仕方がなくて。
　どれだけ避けられても、邪険に扱われても、鬱陶しがられても、嫌いになれなくて。
　それは多分、こういう場面で見せてくれる、彼の優しさのせいで。

　クラクラする頭で玄関まで走り、靴も履かずに外へ飛び出す。

　体調が悪化したって良い。優斗が見たのが彼じゃなくたって良い。
　私はただ、目の前のチャンスを、掴み損ねたくないんだ。

　コンクリートの上を裸足で走って、階段を下る。
　冷たい。頭が痛い。息が苦しい。気持ち悪い。

　それでも、止まるわけにはいかない。止まらない。止ま、れない。

「 ―――先輩ッ！！」

　彼の背中を見つけるまでの時間は、長かったようで、意外と、あっという間だったのかも知れない。
　階段を降りきった先。真っ直ぐに元来た道を戻っていく先輩の背中に向けて、思いっきり叫ぶ。

　先輩、先輩。待ってよ、先輩。
　置いてかないで。私を一人にしないで。
　先輩まで、私の前から、消えないでよ。

　お願い。

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