お人好しな先輩 ページ28
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「 今Aちゃんから連絡あったんだけど、なんか、体調崩したみたい 」
一向に立華の姿が見えず、会議の時間が押し始めた頃。
俺の苛立ちを感じ取ったかのようなタイミングで福良がそう言った。
まだ集まっていない一人が体調不良ならば、これ以上待つ必要はない。
では始めましょうか、という伊沢の声を合図に、皆各々がやっていた作業を中断する。
俺も例外ではなかった。
何度も送ろうか送らまいか迷っていたラインの文面をタンタンと打ち消して、取り出していたスマホをポケットにしまう。
馬鹿だな、ほんと。
避け続けてきた相手に、今更何を言おうと言うのだろう。
「 河村さん、大丈夫すか 」
「 あぁうん、大丈夫。続けて 」
どこか上の空であることを感じ取られたのだろう。
伊沢に名前を呼ばれて、直ぐにいつも通りの表情を浮かべる。
あいつのことだ。どうせ数日後には能天気な笑顔を浮かべて出社してくるに違いない。
俺がなにか気にかけるようなことでもないし、考え込むようなことでもないのだ。
…………見舞いだって、行く必要はないだろう。
「 じゃあ、今回はここまでにするか。一同解散！ 」
―――結局、会議が終わっても俺はずっとパソコンと睨みあっていた。
周りは会議の内容を熱心に纏めているのだろう、とでも思っているのだろうが、実際は意味もなく同じページを行ったり来たりしているだけだ。
明らかにいつも通りにじゃない自分に、心底呆れ返ってしまう。
これが俗に言うお人好しというやつなのだろうか。
「 ―――Aちゃんのこと心配なんでしょ 」
「 っ……福良か 」
「 行ってきたら、お見舞い。今日くらい早退しても俺がカバーするよ 」
「 あいつにそこまでする必要性があるとは思えない。却下 」
「 素直じゃないね。ほら、そんな状態で仕事されても困るんだから、行った行った 」
「 ちょ、おい 」
背後に立っていた福良に押されるようにして、あれよあれよと言う間に玄関の外へ追い出される。
ご丁寧に俺の荷物も纏めてきてくれた彼は、玄関先の俺にそれをぽいっと渡すと、にっこり笑顔で「 Aちゃんによろしくね 」と言ってきっちり扉を施錠していった。
一応合鍵は持っているが、このまま戻ったところで、また追い出されるのが落ちだろう。
今回は大人しく従うか、と俺はエレベーターがある方角に体を向けた。
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作者名：朝田 | 作成日時：2021年2月26日 0時
