隙間を埋める ページ26
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特に深い意味なんて無かった。
ただ何となく、立華にそういう存在が居ることを知って、俺は彼女を避けることに無駄な労力を使うようになった。
あいつが来る日は休むようになった。
それでも被る日はなるべくあいつの視界に入らないようにした。
動画も一緒に出る回数を減らしてもらった。
毎朝渡してくる飲み物は後輩にあげるようになった。
隣に座ってきたときは席を立つようになった。
なにかを埋めるように、しずくさんと時間を共にすることが多くなった。
「 なんで居るんですか…… 」
「 近く通りがかったから 」
「 毎回それですよね。嘘のレパートリー少なすぎません？ 」
今日もまた見え透いた嘘を吐いて、しずくさんの働いているカフェに出向く。
彼女は裏でエプロン姿から私服に着替えてくると、俺を見るなり肩をすくめた。けれど追い返そうとしないところは、やはり、伊沢が「 兎に角優しい 」と豪語するだけあると思う。
いつからだったか。立華と一緒に居る機会が減って、反比例するようにしずくさんと一緒に居る機会が増えて。
そうしたら自然と、手を繋いだりだとか、恋人っぽいことをするようになって。
伊沢と彼女の火付け役にでもなろうと思っていたのに、気づけば、彼女の隣が居心地良かった。
「 そういえば、もうすぐで梅雨が明けますねぇ 」
しずくさんと並んで歩いていると、突然彼女がそんなことを言い出した。
空を見上げる彼女にならって俺も空を見上げれば、そこはまだ厚い雲でおおわれている。確か、昨日の天気予報でそんなことを言っていたような。
少し歩くと、厚い雲の隙間からそっと夕焼け空が顔を覗かせた。
どうやら本当に、梅雨明けはすぐそこまで来ているらしい。
「 ……君って結構肝座ってるのに、恋愛に関しては臆病だよね 」
何気なく、夕焼けを見つめる横顔にそう溢す。流石に脈絡が無さすぎただろうか。
けれど彼女は目を見開いてこちらを向き直ると、「 どうしてそう思われるんですか 」と呟いた。
以前から思っていたことだった。
手を繋ぐ時も、彼女は一瞬だけ躊躇いを見せる。
伊沢に告白されるときも、彼女は一瞬だけ困った顔をする。
よく見なければ気づけないほど、一瞬だけ。
「 ……なんとなくね 」
そんな細かなことに気づいてしまうほど、俺は君で心の隙間を埋めてしまっている。
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作者名：朝田 | 作成日時：2021年2月26日 0時
