こっち向いて ページ20
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「 ねぇ、キョロキョロしないでくれる?僕まで変な奴に思われる 」
「 え?!先輩スマホ見ながら私のことも見てたんですか?!やっぱ私のこと大好きじゃないですか〜〜 」
「 は? 」
正面に座る彼はスマホから顔をあげて眉を潜めると、全く温度の感じられない視線を私に送ってくる。
信じられないくらい感情が消え失せてるな。
そんな目で見られても、先輩と目が合わせられるだけで、私にとってはご褒美ですけど。
「 ……うふ、先輩、やっとこっち見てくれた 」
さっきからずっとスマホに向いていた視線。
それがどんな形であれ私に向いていると分かって、思わず変な笑いが漏れる。先輩だってとっくに知ってるでしょ、私が誰よりも単純な奴だってこと。
けれど嬉しい時間はそう長くは続かない。
私の笑い声が『 ふふふふ 』から『 むふふふふ 』になった頃には、先輩の視線は二度とこちらに向くことは無くなっていた。
それはもう、断固として私の方は向かない、という強い意思を持ったもので。
どこか機嫌の悪い先輩はずうっとスマホを見つめ続けていた。
「 せんぱーい、こっち見てくださいよー 」
「 無理。今スマホと見つめあうのに忙しい 」
「 先輩は人類よりAIを選ぶんですか?!? 」
「 まぁ正直AIの方が将来有望だよね 」
「 裏切り者!!やり過ぎ都市伝説に殴られてしまえ!! 」
「 向こうもお前に呼ばれて来るほど暇じゃないと思う 」
こんな会話をしている間も、先輩と視線は交わらない。
けれど絶対に言葉を返してくれる優しさは全然隠しきれていなくて、今度は口に出さないよう努めながら、彼に話しかけ続けた。
目を合わせてくれないに続いて無視されるのは流石の私でも悲しい。
「 お待たせしてすみません、河村さん、立華さん。今回QuizKnock様とのコラボを担当させていただきます、田中と申します 」
暫くするとピシッとスーツを着こなした河村さんと同い年くらいの男性がやって来て、同時に立ち上がった私たちは、スムーズに名刺交換を終わらせる。
何気に名刺交換は初めてだった。
今日の日の為だけに福良さんと作成した名刺が彼の手に渡り、少し名残惜しい気持ちになる。
私の名刺ちゃん。どうか元気でね。
「 それでは、これから会議室の方まで案内させていただきます 」
感動の別れはさら〜っと流れていった。
私は先を行く田中さんの背中を追いながら、そっと肩の緊張を解した。
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年2月26日 0時