助けてくれる先輩 ページ12
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「 お前、ほんとこのココア好きだよね 」
いくら腕を伸ばしても届かないココアを睨み付けていると、そんな声と共に、背後に覆い被さるような温もりが感じられる。
顔の横からは男性にしては細い腕が通りすぎ、私が伸ばせる腕の限界を優に越えて、その手は呆気なく棚に置かれたココアの袋を掴んだ。
その腕が誰の物かなんてすぐに分かった。
頭上のすぐ近くからは柔らかい彼の声が鮮明に聞こえてきて、変な声が出ないように、私は必死に口元を押さえる。
「 立華？ 」
「 ひゃい！！！ 」
突然耳元で苗字を呼ばれ、耳を塞ぐようにして振り向く。
すると眼鏡が触れるスレスレまで近くにあった彼の顔は、まるで驚いている私が可笑しいみたいに、訝しげな表情をしていて。
どう考えたってその表情をするのは私の方だろう。
「 なに今さら初な反応してんの。全然需要無いよ 」
「 な、なんてこと言うんですか！！可愛い乙女が照れてるんですよ？！？もっとこう、キューン！ってしても良いじゃん！ 」
「 するわけないだろ馬鹿。ほら、お湯沸いたから早くして 」
キャンキャン叫ぶ私なんか見えていないとでも言うように、先輩はお湯の沸いたやかんでカップにお湯を注いでいく。
それでも先輩が嫌いになれないのはやっぱり、自分の分を淹れ終わったならすぐにでも戻れば良いのに、私の準備が出来るまで待っててくれる細かな優しさのせいで。
先輩のせいで熱くなった耳の体温を感じながら、スプーンで二杯分の粉末をカップに入れ、お湯を注ぐ。
その間、先輩は猫舌ということもあり、背後の冷蔵庫で作っている氷をカップに入れていた。
私は別に猫舌じゃないけど、先輩とお揃いが良いから、私も二個氷を入れてもらった。勿論先輩に。
「 今度は一緒に同じもの飲みましょうね！ 」
「 やだよ。お前の飲むやつはやたら甘い 」
「 それが良いんじゃないですか！あ、なら先輩も角砂糖入れます？ 」
「 ……お前ただでさえ甘いココアに角砂糖入れてんの？化けもんじゃん 」
「 レディーにそんなこと言っちゃいけないんだぞ！ 」
「 少なくともお前は例外だよ 」
二人で湯気のたたない温い飲み物を手に編集部屋に戻ってくると、もう一人の先輩である山本はすっかり仕事に打ち込んでいた。
さてと、私も真面目に仕事再開しますか。
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作者名：朝田 | 作成日時：2021年2月26日 0時
