甘くて暖かくてうざったい(K.K) ページ49
人々が慌ただしく行き交う駅の構内を抜けて春の日差しを浴びた。
暖かくて心地良くて、ほんの少し眠くなる。
ふと目の前のパン屋に目をやった。
駅前という最強の立地を持ったこの店は今日も繁盛している。
小島「人多...」
ゆらゆらと歩いて近寄ればふわふわと出来たての匂いが俺を誘う。
小島「んー...」
ピンク、グリーン、ブラウン、またピンク。
一面に並んだカラフルな形に我慢の限界がきた。
今家何もないし丁度ええわ、なんて思って店内へ。
どれもこれも美味しそう。
次から次へと目移りしてしまう。
―Aが好きなやつどれやっけ。
トングを片手に店内をフラフラする。
だけど正解は見当たらない。
そんなことも分からんねや、と少しだけ自分を情けなく思った。
選んだパンをトレイに乗せてレジへ。
会計を済ませ、優柔不断を袋に詰め込んだ。
―Aが好きなやつこれで合ってんのかな。
分からないまま紙袋を受け取って店の外へ。
相変わらずポカポカしている街並みをぐるりと見渡す。
柔らかくて甘ったるくて暖かい。
うざったいほど愛おしい。
それなのに―
歩き慣れた道を進む。
時より乱れる歩幅はサイズの合わないスニーカーのせい。
パンって賞味期限短いっけ。
どんくらい持つんやろ。
もしかして買いすぎた？
不安になりながら手元の紙袋を覗き込んだ。
あれもこれも選んでしまった自分を心の中で責める。
―1人で食べるには多かったよな、絶対。
Aと別れて数ヶ月が経とうとしている。
それなのにまだ2人暮らしの感覚が消えないまま。
きっとAは新しい恋を見つけている。
俺なんかよりもっともっと良い男と出会っているに違いない。
だけど俺は未だに探し続けている。
笑った時のえくぼも揺れるポニーテールも、
細い踝もキラキラのネイルも二の腕のほくろも、
感触も匂いも温もりも。
でもやっぱり見つからない。
だってここにはもうないから。
草間「あれ？小島？」
小島「えっ！リチャくん！」
草間「何してんの？」
小島「今帰るとこです」
草間「あ、それ駅前の？」
小島「あーそうですそうです、」
草間「あっこめっちゃ混んでへん？」
小島「混んでましたよ〜...あ、何個かいります？」
草間「え？ほんまに？」
小島「はい、買いすぎちゃったんで」
カラフルなパン達には不似合いな感情がぐるぐると渦を巻いた。
Fin
パン/ウソツキ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 218人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ﾋﾟﾝｷ(プロフ) - ふさん» こちらこそ最後までお付き合い頂き、ありがとうございました！またいつか短編集を作りたいと思っているので、是非お楽しみにしていてください☺️ (2023年3月16日 22時) (
レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
ふ - この作品すごく好きなので終わってしまうのは悲しいですが今まで本当に有難う御座いました🥺💓短編集が好きなのでまた作って欲しいなとか思ってます😂主様の作品全部好きなのでまだまだ楽しみにしてます(> <)今までお疲れ様でした😌 (2023年3月15日 18時) (レス) @page50 id: 77b65fcba7 (このIDを非表示/違反報告)
ﾋﾟﾝｷ(プロフ) - ふさん» ありがとうございます！とても嬉しいです😌これからも是非楽しんでください！ (2023年3月5日 17時) (レス) id: 9e28345530 (このIDを非表示/違反報告)
ふ - 主様の作品毎日めっちゃ楽しみにしてます🥺✊🏻いつも胸がキュッとなる物語ばかりで読んでてすごく楽しいです(＞＜) (2023年3月5日 16時) (レス) id: 77b65fcba7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ﾋﾟﾝｷ | 作成日時：2023年2月7日 21時
