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ーー放課後。今日はバイトがないのでゆっくりと帰ることにした。今日は焦ったなあ、なんて思いながらぼーっと歩いていく。沢山の生徒の中、寮へ向かう。
「あ、Aさん」
後ろから飄々とした声が聞こえて振り返ると、案の定彼がいた。今日で私の中で要注意人物の、有墨昴。できれば関わりたくない。ひらひらと手を振って、なんだか楽しげな雰囲気だ。嫌な予感がする。
「今日はやらないんだ」
その笑顔に不快感と虫唾が走る。睨みたい気持ちを抑えてきわめて笑顔で言った。
「……何を？」
「援助交さ」
私の口角の笑顔は一瞬で消えた。慌てて彼の口に手を当てる。周りを確認しても、聞いている人はいないようだった。でも、この人にはやっぱりバレていたんだ。私はため息をついて頭を抱えた。もう、人生が終わったと思った。泣きそうなのを必死に堪える。
「あの」
祈るようにゆっくりと彼を見上げた。
「誰にも言ってないよ、まだ」
まだ、という言葉が心に突き刺さる。……終わった。これから親にも、友達にも、バレてしまう。そんな仲の良かった軽蔑の目を向けられてしまうのだろうか。
立ち止まって通行の邪魔をしていた私達は端の、ソメイヨシノの木の影に隠れるようにした。春の桜の花びらが私の肩に乗る。その花びらは先が欠けていて、そこから枯れた茶色が広がっている。とても綺麗とは言えなかった。それと私を重ねて見ると、悲しさが一層増す。
「そんな泣きそうな顔しないでよ」
「条件次第なら言わないし」
彼は肩をすくめて、困ったように笑う。ふざけているように見えて、苛立ちを覚えた。
「……何がしたいの」
「あー……まだ決めてない」
「何にしようかなあ」
何か気持ち悪いね、と言いながらも真面目に考えているようだった。生唾を飲み込む。でも半分諦めていた。やっぱり、彼の言うことを聞いてもいずれバレるだろう。俯いて制服の袖を強く握る。
「分かった、これにしよう」
「条件として、援助交際をやめる」
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作者名：たけしだよ@コイキング | 作成日時：2019年1月29日 21時
