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「なんで名字嫌いなの?」
小走りで、逃げ道を阻むように彼の前に出た。そして後ろを向き、彼の表情をじっと見つめる。その間、私は後ろ向きで歩いていた。交通量も少なく静かなこの道は、彼に追及する私を邪魔するものは何もない。
「ずけずけ入り込んでくるね」
「そんなに俺のこと知りたい?」
苦し紛れにからかっているつもりなのだろうが、私は動じずにコクリと頷いた。人の秘密が知りたい、そういう欲求がどんどんと湧いてくる。彼を見上げて、次の言葉を待った。
「……危ないよ、そういうとこ」
すると突然、腕を引かれる。驚いて抵抗しようと思ったのだが、男性の力には敵わなくて呆気なく彼の胸に飛び込んでしまった。頬が衝撃で小さく痛みを感じる。
力が緩まれた隙に離れると、横から自転車がベルを鳴らしながら通っていった。その自転車の人に何やら勘違いされたようで、微笑ましそうな顔で振り向かれる。恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。
「う……ありがとう」
お礼を言うべきか一瞬迷う。ありがた迷惑というか、腕を引かなくても一声かけるだけで良かったのではないか、と思った。
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作者名:たけしだよ@コイキング | 作成日時:2019年1月29日 21時