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汚れた手 ページ32

***


胡蝶はああいっていたものの。

夜、決められた地域の警邏を行いながら、俺はぐずぐずと考えている。
不死川に渡された護符も、邸に仕舞ったままだ。
いよいよ冬を告げる大風が吹いて、気温はぐんと下がった。
訓練をしているとはいえ、冬の夜、絶えず動き続けるのは楽なことではない。
俺は首元の襟巻をより強く結んで、またドンと跳びあがると、ひと際高い樹のてっぺんから、目視できる範囲を見下ろした。

今日は鬼をすでに2体、切っている。
やはり夏の間に無茶をしたのが奏功したのか、例年よりは被害も少ないように思う。
不意に顔が痒くなり、ぐいと襟巻で拭くと、べっとりと鬼の血が襟巻に移った。
そのまがまがしい痕跡を、俺は一瞬ぼうっと見る。

―――好きな女一人攫えなくて、

胡蝶の鈴を転がすような声が脳裡に蘇った。
恐らく胡蝶の言う通り、俺はA殿を好いているんだろう。
好意を抱いているのだろう。
幸せでいてほしいと思うし、誰にも傷つけてほしくないと思う。
無礼な態度も許せないし、許婚という男が彼女の体に触れたとき、ぞわっと体が冷えるのを感じさえした。
だが、それが何だというのだ、A殿にとって。
まだ俺の視線は襟巻のくろぐろとした汚れにつかまっている。

夜ごと、かつては人間だった哀れな化け物を狩っているような汚れた手に、A殿のあの白い白い腕をつかむ権利があるのか。
明日、死ぬとも知れないのに。

「好きって何だ?幸せになってほしいとは思っている」

幸せにできる、とは思えていない。
カアアーー、と鎹鴉が珍しく高く鳴いて、俺はハッとした。

「ム…ムシスルナァ…」

「すまない。考え事をしていた」

「北…北の山ジャァ…」

「…もう少し具体的な伝令をくれ」

俺は頭を切り替えるように一度、日輪刀を振った。
すっと頭が冴えるような気がした。


***

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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時

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