吐露 -3 ページ28
***
『ごめんなさい。
こんなことに付き合わせてしまって。
…でも、おかげ様でとてもすっきりしましたわ』
私がそう言うと、しのぶさんはそれは良かった、と微笑んで、家まで送りましょう、と続けた。
家…、今晩は敬一郎さんしかいない。
「お友達ですもの、私泊めていただけますよね?」
察したように、しのぶさんは言った。
帰宅すると、それはそれは腹を立てた様子の敬一郎さんが待ち構えていたが、しのぶさんを見て、私に向かって上げかけた手を下ろす。
「鬼狩りか」
「ええ、道でこちらのお嬢さんを保護しまして。
見たところ、藤の家紋のお家のようですので、本日泊めていただくことになりました」
どうも、先日のしのぶさんの化粧がみごとだったおかげで、今目の前にいる彼女と以前家で出会った十四、五の町娘が同じ人だとは、わからない様子だ。
父が、まだ下ろしていなかった藤の家紋ののれんのおかげで、なんとかごまかせたようだった。
敬一郎さんは、すれ違いざま私に、怒りをあらわにしたまま、「俺に恥をかかせるなよ」と吐き捨てるように言った。
ほんの少し、胸がすくような気がした。
***
「…富岡さん、あなた、早くしないと、まずいですよ」
私は、一人屋根に上って呟く。
警邏の途中だったのだ、うかうか眠っているわけにもいくまい。
Aさんが眠ったころに、ここを出よう。
眼下の庭には、あの藤棚はない。
均されて、真新しい土が顕わになっている。
「…藤の家紋を下ろしてしまうのね」
先ほど対峙した、敬一郎というAさんの許婚、あれはあまりよくない男だ。
独占欲が強すぎるし、自分の体面が一番大事だと思っているたぐいの男。
あの家に嫁げば、Aさんはいよいよ籠の鳥だろう。
そして、鬼が襲ってきても彼女を守るすべはない。
うっすら藤の香りがしたから、しばらくはあの護符が守ってくれると思うのだけれど。
「…世話の焼ける先輩ですよね、まったく」
私は、傍らの鎹鴉に向かってつぶやく。
***
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時