圧しつける ページ20
***
「奥へ声をかけましたが、お返事がありませんでしたので。
Aさん、こちらは?」
ずいぶん仕立てのいい背広を着た男だ。
俺は眉を寄せる。
兄か?家族か?
『……鬼狩りの方ですわ』
「鬼狩り。へえ、こちらが」
敬一郎さん、と呼ばれた男はゆったりと俺に目線を合わせた。
そして、興味なさげにすぐ逸らす。
「結婚前の女性があんまり、男性と二人でお話しされるのは、感心しませんね」
『そ、そうはおっしゃっても、これは我が家の責務ですから……、』
男は、ふー、と浅いため息をついて、首を傾いだ。
「そんなことは使用人にやらせなさい」
そして、圧しつけるような口調で続ける。
「Aさん、あなたはこの家を出るんですから」
ああ、なるほど。
俺はぽり、と額をかいた。
これがA殿の許婚か。
「あなたも。
鬼狩り……というものはAさんから聞いて存じ上げていますが、
あんまり私の……当家の許婚に馴れ馴れしくしないでくださいね」
俺の後ろで、A殿が怯えたように俯くのを感じた。
厭な感じの男だな、と俺は思った。
「冨岡さん、どうかなさいました?」
なんとなく人間関係のもつれを感じて膠着していた俺は、屋敷の中からわざとらしくかけられた胡蝶の声ではっとする。
「早く出発の準備をしましょう?」
そう言って胡蝶は、普段絶対にしない媚びた姿を作った。
「早く!」
目配せして俺の腕を掴むと、引きずるようにその場から離れた。
胡蝶の目線の先には、不穏な気配を察したのか怪訝な顔をしたA殿のご尊父と花殿の姿があった。
許婚の男は、一瞬だけ不快そうに俺の顔を見上げた。
***
「Aさん。
僕はあなたのことを心配しているんですよ。
嫁入り前の女性のいる家に、入れ替わり立ち代わりあんな粗野な男が出入りして。
僕はわざわざ両親にそんな話はしていないですが、父が見たらいったい何を言われるか」
『……ですが、わたくしは鬼から命を救っていただいた身ですから。
まだこの家にいるあいだは、その御恩に報いたいと、』
「あなたの御父上も同じご意見なのですか?
御父上は、違うと思いますよ。
Aさん、……鬼狩りと縁を切りなさい。
結納の日取りを早めてもいい。
この縁談は、あなたの御父上がぜひに、とおっしゃっているものなのですよ、」
破談にするおつもりですか?
敬一郎さんは、いつもの圧しつけるような口調で言って、私の顔を覗き込む。
***
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瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時