御身を第一に -1 ページ37
***
「ひいい!!!何じゃあ、これは!!!」
「落ち着いてください、おい、衝立を!漆原様をお守りしなさい!
お前とAは奥へ―――、」
父がこちらを向く。
けれど、私にはわかっている。
この鬼は最初から、私以外が眼中に入っていない。
「お嬢様、」
『花、お母様を!奥へ』
私は護符を握り込んだ右のこぶしを左の手で支えながら、前に突き出した。
私が胸元からそれを出したとき、鬼があきらかに一瞬怯えたことに気づいていた。
…さすが、鬼狩り様の護符。
ただ、じわじわと鬼が平静を取り戻しつつあることにも気づいている。
そして、―――
「っひ、」
『…敬一郎さん!』
腰を抜かして座り込んでしまった敬一郎さんのかすかな悲鳴に、鬼が意識を向ける。
鬼が腕を振り上げた。
とっさに髪に飾っていたかんざしを抜いて投げる。
…まあ、これは漆原からの結納品の一つなのだけど。
かんざしは鬼の目のあたりに当たり、鬼がひるんだ。
その一瞬で、私は敬一郎さんを、そして敬一郎さんの母を背中に隠した。
『…わたくしはここよ』
じり、と鬼の視線を誘導しながら、少しずつ庭のほうへ移動していく。
このまま外に誘導しながら、時間をかせぐしかない。
握り込んだ護符が、汗で熱く熱くなっていくのがわかる。
…どのくらいもつのかしら、私。
その甘い一瞬を衝かれ、…まばたきほどの一瞬で、目の前に鬼が、鎌のような爪を振りかぶって、覆いかぶさってくるのが、見えた。
その悪臭とくろぐろとした影にからめとられ、一歩も動けないまま、私はいつかと同じことを祈る。
どうか、私の血肉でこの鬼の腹が満ちますようにと。
そして、願わくは冨岡様がこの鬼を、
…殺してくれますように。
私の仇をとってくれますように。
「もう大丈夫だ。」
そして次に目を開いたとき、私はその視界にひらめく羽織を見たのだ。
「遅くなった」
その美しい太刀筋で、空気をそのまままっすぐ切り裂くように、鬼の頸が両断され、ゆっくりと落ちていく。
花びらが舞い落ちるくらいの速さで。
鬼の断末魔もない。
あまりにも静か。
すとん、とその人の草履が座敷に降りたとき、ようやく世界が音を取り戻した。
鬼の体が灰になってほどけていく。
『…と、』
「御身を大切にと言ったのに、また貴女は自らの身を晒して人を守ろうとする。
ちゃんと文は読んだのか」
『冨岡、様』
***
464人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
瑞姫(プロフ) - 今吐露2でリアルに泣いております、、思わずよくわからない報告コメント申し訳ないですめちゃくちゃ好きですこの作品 (2020年6月24日 23時) (レス) id: 445b4986a2 (このIDを非表示/違反報告)
pink0223xxx(プロフ) - はじめまして、更新お疲れ様です。素敵な言葉遣いや雰囲気が想像がしやすくてどんどん引き込まれていきました。泣いたり笑ったり楽しかったです。応援してます! (2020年6月3日 21時) (レス) id: 086d84223c (このIDを非表示/違反報告)
おんたま(プロフ) - はじめまして。更新お疲れさまです。完成度が高くすごく素敵な作品だと思います。無理のない範囲で更新頑張ってください。応援しています。 (2020年6月3日 2時) (レス) id: 8f0607afea (このIDを非表示/違反報告)
イトカワ(プロフ) - お返事できてないお三方、コメント返信できてなくてすみません、いつも更新遅くてすみません、読んでくれてありがとうございますloveです (2020年6月2日 19時) (レス) id: 100d291aa9 (このIDを非表示/違反報告)
madoka(プロフ) - 更新お疲れ様です!ずっと待ってました〜っ!!これからも頑張ってください。 (2020年5月24日 21時) (レス) id: f3e815359c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:イトカワ | 作成日時:2020年4月19日 22時